奥村勝彦 岩井好典

 

 

 

(以下、講演録)

 

2006.10.20 早稲田大学学生会館にて

 

 

司会  ではそろそろ始めさせていただきます。

 

奥村氏 エンターブレイン(編集長)の奥村と申します。うちの会社は、ゲーム作ったりもしますが出版社でして、その中のコミック編集部で『月刊コミックビーム』という漫画雑誌を毎月発行しています。一緒に相棒で副編集長の岩井も来させました。こいつは早稲田のOBですんで。まあ今日は就職に直結する話というか、編集者は普段何やっとんねん、という話をすればいいんですかね?

 

司会  何かアドバイスになる事があればいいかな、と。

 

奥村氏 皆さん大部分がこれから就職活動をなさるようですが、漫画の編集に興味があるんですよね? 今日、ここに来るとき岩井とタクシーの中で「漫画の編集って何人おるのかな?」って話をしていたんですよ。それで、全部ひっくるめても、多分2000人もいないんじゃないかと。イメージ的な業界規模からみると人数は少ないですね。これがなぜかというと、東京以外で出版社というものは、ほぼ存在しません。そんな中で漫画というのは売り上げのいいポジションにいるんでしょうけれど、一つの出版社の中で漫画専門の版元(出版社)でない限り、漫画の編集者なんて半分の人数もいませんから。

 

岩井氏 今、大手のK社で、従業員全体で1000人くらいですよね。でも、漫画編集者はどうだろう…たぶん100~150人とかなんじゃないかな。あそこは結構外部の編集プロダクションをスタッフに入れてるし。

 

奥村氏 まあ、就職して漫画の編集になるといったら、なり方は二通りあるわけですね。一つは出版社に就職し、漫画の編集部に配属される。このメリットは、まず待遇が非常に安定している。デメリットというか問題は、出版社に入社しても、漫画の編集部にいける保証はまったくない。でかい会社なら起こりやすい事ですね。もう一つのやり方が、編集プロダクション。これは、アウトソーシングということで出版社を手伝ったり企画を立てたりしながら関わっていく、と。こちらは漫画編集という希望の職種につける可能性は非常に高いです。難易度も正社員よりは低い。ただし待遇はというと~、ぶっちゃけかなり厳しいかな、と。まあ、最初は皆さんは新卒で正社員目指してやっていっても、元々出版社は人数が少ないので、狭き門なんですね。そこに入るというのはかなり難しい。そこで駄目で、まだ諦めきれないガッツがあるのであれば、編プロですね。そこで叩き上げて大手の出版社に入るというケースもあります。でも、これも門が広いかというとそんな事はないです。ただその人の能力が純粋に問われるんで、こいつを入れれば戦力として2割、3割アップするというような実力を持っていれば、可能性はあります。状況で言うと、今出版社の社員というのは「団塊の世代」の人がものすごい多いんですよ。その人等が来年、再来年にかけて一気に定年退職で減る。ただ、退職金でお金をたくさん持って行きはるんですよ(笑)。で、どうなるかというと、キャッシュフローが極端に低くなる。すると、当然の帰結として業務のアウトソーシングに流れていく。正社員を採るよりバイトの中から絞っていく、とかいう形になるでしょう。人数減るから入社するのが楽になる、とはならないのが現状ですね。漫画の編集目指すなら、初志貫徹で、強い気持ちでやっていってもらわないとキツいですね。それが、就職という観点から見た現状であります。で、僕の個人的な「漫画編集者とはどういうものか」という見解を語ってもよろしいでしょうか。漫画、というのはエンターテインメントの分野に属するわけですが、エンターテインメントに関わるとはどういうことか、というのをずっと考えているんですけれども、基本的に、「エンターテインメントはなくてもいいものだ」というのが、僕の結論なんですよ。例えば、明日漫画の出版社が全部なくなったとして、困るのは一部の人間であって、後はほぼ変わらない。漫画がなくても、テレビなどの他の娯楽に行くでしょう。それでなんで僕らがこの世に存在を許されるかというと、それを読んで面白がった人達からおひねりを貰って暮らしているんだ、と。その事は、娯楽に関わる人間は皆わかっていないといけないんじゃないか、と。自分達の存在を知らしめるためには、いかに面白い事を考えていくか、そのためには日々アホな事ばっかり考えていかないといけない。もちろん世間の動向にも目を配らないといけないんだけれども、いかにお客さんを楽しませられるか、というのを、作家さんやクリエイターと話し合い続ける、というのが、娯楽に関わる人の基本姿勢なんだろうな、と思っています。「アホな事を考えている」というのは、世間から見たらまったく役に立たない事をやっている、という風に見えますが、その通りなんですよ(笑)。例えば、漫画家が日頃何をやっているかというと、寝転がって部屋の天井をジーっと見ている。頭の中でいろいろ面白い事を考えて「これで原稿が描けるな」となって、はじめてペンを走らせるんですね。端から見てると、「天井を見ている人」は何もしていない人にしか映らない、話してみたらますますわからん、という風になるわけですね。漫画作りの作業の半分は、それなんです。原稿の前に向かった時点で勝負は既に決まっていて、その時に周りの人に邪魔されると、作家はものすごい嫌がる。そういうロクデナシみたいな人を集めて、一緒になってロクでもない事をやっていく、それでお客さんを喜ばせて、そのおひねりで暮らしていく、というのが僕等の仕事の基本的な部分ですね。そういう風に思ってない人も中にはいるでしょうが、僕はそう思っています。それで、漫画編集が他の出版と違うところというと…岩井、どうかね? いきなり振るけど(笑)。

 

岩井氏 (笑)奥村さんはですね、「天才編集者」なので、真似ができないんで。多分今言った事は何も間違っていないと思うんですけど、非常に汎用性が低い(笑)。皆さん読んでいらっしゃるかわかりませんが、最近うちで出た『真説ザ・ワールド・イズ・マイン』とか、作者の新井英樹さんに「奥村さんに出してもらいたい」と言わせられるような人ではあるんだけれど、一方で、誰にでも通用するノウハウを持っている方ではないので。いましろたかし氏なんかと仲良くやれる人なので。「変な人」好きなんですよね。

 

奥村氏 お前もそうやんか!(笑)

 

岩井氏 いや、俺は仕事だな~と思ってやってるところがありますよ(笑)。今ここに来てらっしゃる方々は漫画編集者になりたい、と考えている方々として、どんな感じの編集者になりたいのか、というので大分違ってくると思うんですよ。僕と奥村はたまたま同じキャリアで進んでいますけど。初めに新卒で秋田書店という出版社に入社して、『チャンピオン』編集部に配属されたんです。当時この編集部は『週刊少年チャンピオン』と『月刊少年チャンピオン』と隔週の『ヤングチャンピオン』という雑誌を、一つの編集部で作ってたんですね。月に雑誌の校了が7~8冊くらいあるんですよ。毎週1.5冊くらいの雑誌を作り続けるような編集部で。奥村は僕の2年先輩なんですけど、直近の先輩なんですね。なんでかと言うと、間に入った新入社員は1年もたずに全員辞めちゃった。

 

奥村氏 内臓壊したり、半ば発狂したりでね(笑)。

 

岩井氏 で、僕が奥村さんに何を最初に教わったかというと、お茶の汲み方(笑)。秋田書店は朝9時半出社なんですね。とり・みきさんの漫画でもネタにされているんですけれど、とても出版社と思えない(笑)。新入社員はそれより早く来て、編集部員全員にお茶を淹れるんですよ。それで奥村さんに「給湯器のホースは熱いから気をつけなあかんで!」とか教わったんです(笑)。他の事、編集の仕事とかは……習ったかどうか覚えてないんですけど(笑)。

 

奥村氏 教えてない(笑)。

 

岩井氏 『チャンピオン』はメジャーどころの中堅に位置する雑誌ですよね。我々はそこで漫画作りの基礎を学んで、お互いに違う経緯で当時のアスキー、今のエンターブレインに移って『コミックビーム』という雑誌を作っているんですが、こちらはマイナー誌の中堅、以前は少し下のほうだったけど真ん中くらいに来れたかな、と。

 

奥村氏 他が全部潰れたからな。

 

岩井氏 他のビームの競合雑誌は、講談社や小学館の端だったりして、「おまえらでかいだろ!」みたいなね(笑)。『アフタヌーン』とか『IKKI』とか。『IKKI』の編集長とは、ぼくら仲いいんですけど。漫画編集って言っても、マイナーからメジャーまで幅が広い。最近『出版業界最底辺日記』という、エロ漫画誌のマイナーなところの苦しみを書いた作品がちくま文庫から出ましたけど、そういうところはお金がない。例えば、これはエロじゃないけど、我々が仲のいい版元で青林工藝舎の『アックス』の人達は一時、別にバイトをしながら、本を作ってました。今は違うと思いますが。一方で、『チャンピオン』にいれば、『マガジン』『ジャンプ』『サンデー』等の人達とも当然交流が出てくる。だから多分、僕と奥村に漫画編集者としてアドバンテージがあるとするならば、メジャーの視点もマイナーの視点も持てる、という事ですかね。メジャーの人はメジャーの見方しかしないし、マイナーの人はマイナーだけですので。で、あなた方はこれから基本的に新卒社員として漫画の編集者になろうとしているわけですから、基本的にメジャーの方向を希望なさっていると思うんですね。さっき奥村さんが言っていた事は間違ってなくて、二つの方法があって、第一のやり方では入れなかった者が「それでも漫画編集がやりたい」と考えて、編プロ、あるいは漫画業界の周辺にいて。例えば「まんがの森」という書店にいた店員さんがヘッドハンティングされて秋田書店に入社し、『チャンピオンRED』という編集部に配属されて、車田正美さんの『聖闘士聖矢』の続編を始めたりとか、そういう事があるので。思いを持って続けていけば、漫画業界の端にいながら編集者になるという事もあると思うけれども、まずは出版社に入ることですよね。厳しい状況ですけれども。元々厳しい世界ですけれどね。あまり認識していないと思うんですけれど、出版業界って凄い小さなパイなんです。4~5年前のデータですけれど、出版業界全体の売り上げと富士通一社の売り上げが大体同じです。その中の発行部数の約3~4割が漫画。ただ漫画は単価が安いので売り上げで言うと20~30%くらい。だから、実はそんなにでかいメディアではない。ただ発行する力、のようなものが、漫画は完全にワールドワイドですから、力があれば簡単に国境を越えたりします。広告代理店の人と話す時によく言われるんですね、「漫画は怖い。なぜこんなに新しいコンテンツや漫画を生み出し続けられるのか」と。今は、映画やドラマの原作のかなり多くが、漫画ですよね。うち程度の雑誌だって、掲載作品の映像化権についての問い合わせは、連載全体の3分の1か半分くらいあります。僕が関係した作品では、『恋の門』と『弥次喜多 in DEEP』が映画化されましたけれども。例えば、最近では『のだめカンタービレ』のドラマが始まって、その直後にamazonのランキングを見ると1位から16位までず~っと『のだめ』でね。4位くらいに『ネギま!』が入ってましたが(笑)

 

奥村氏 あれはすごかったな~。

 

岩井氏 漫画だけでなくて全書籍のランキングで、ですからね。

 

奥村氏 失敗もあるけど、ああいうのを見ると「ドラマ化良いなあ…」とかちょっと思うけどな~。

 

岩井氏 コンテンツ、あるいはキャラクター配給ジャンルとして、漫画はいまだに圧倒的な力を持っています。なぜそんなことができるのか、とよく聞かれますけれども、それは簡単で、「船頭」の数が少ないから、ですね。漫画だと企画を作る時、基本的に漫画家と編集しかいない。まあ、最近は、先に企画書があるというゲームのような作り方をする出版社もあるって話も聞きます。だから一概には言えないんですけれども。うちはまったくやった事ないですけどね。奥村さんは企画書とか見ないから。「何それ?」って感じで(笑)。まずネームを切って来い、と。えーと、話を本筋に戻すと、皆さんは、まずは漫画編集部のある出版社に行って「漫画志望です」と、正社員を目指すのがベーシックな道ですね。でもそれは奥村さんがおっしゃったように非常に困難です。ちなみに、うちの会社の広報の方が同席していますが、うちって毎年何人くらい志望者が来るんですか?

 

広報 3000人くらいですかね。

 

奥村氏 ワーオ!!

 

岩井氏 去年取ったのは何人ですか? 2人。1500分の1ですね。そういう状況で、まずは出版社に入らないといけない。で、僕のほうから凄い具体的なアドバイスをしたいと思うんですけど、面接の席上で、喧嘩を売ったりしないように。「お、こいつ根性あるな」と思って採ってくれるような出版社は絶対にないので。恥をさらすつもりで言いますが、僕は大手のS社でそれをやってしまいました。1次、2次面接では凄くノリがよくて、「これは楽勝だな」と思っていたら、最終とかの面接で調子に乗って、ある有名漫画家さんの批判をしたんですね。

 

奥村氏 ありえんやろ~。

 

岩井氏 今考えると目の前で面接受けていた人は、その漫画家さんを育てた人なんだよね(笑)。ムッとしながら「そんな事はない!」と言われてしまって。その瞬間に「あ、落ちたな」と。だから、そんなところで格好をつけてはいけない。批判は入ってからやればいいんで。入ってからなら、どんなに批判しても大丈夫だから。

 

奥村氏 そうね(笑)

 

岩井氏 あと、あんまりマニアックな事は言わない。

 

奥村氏 あ~、それはあるな。

 

岩井氏 今はもう名前が変わってしまいましたが、CBSソニー出版という出版社の最終面接を受けた時に、一緒に受けた人は合格して、僕は落ちたんですよ。当時のCBSソニーからは大友克洋さんの『ヘンゼルとグレーテル』という作品が出ていて、「漫画出版もやってるんだ」と思って、面接でその話とかをしたんです。あそこは「PATi-PATi」という雑誌を出していて、J-POPアイドル誌の草分け的存在なんですけれども、合格してそこの編集部に入った彼に就活後に話をしたら、「岩井を落としたのはマニアックな事を言ったから、と上司が言ってた」とハッキリ言われました。マニアックであるな、とは言いません。それも入ってからやりましょうよ。面接ではおべっかを使えとは言いませんけれども、その雑誌、出版社のいいところを語る。あまりマニアックにならない程度にね。「ここの雑誌のこういう姿勢が好きなんです」という事を言うように。とにかく、変に格好をつけない。「こいつは骨のある奴だ」となって面接に通るような事はないです。そういう風には、面接試験というものはできていません。

 

奥村氏 僕らが面接をやる側に回ったので、その辺は確信を持って言えます。

 

岩井氏 もう一つ、「頭でっかち」だと編集になっても持ちません。僕がチャンピオンに入った時の編集長は、壁村耐三という伝説的な編集者です。彼がよく言っていたのは「漫画なんか読んでねえ方が、いい編集になる」。それで奥村さんとよく話していたのは、「でもしょうがねえよな、俺等好きなんだからな」と(笑)。壁さん達は、トキワ荘の時から漫画をねじり上げてきた人達だからそういう風に言えるんでしょうが、僕等はそれをベースにしてやってきていますから、漫画が好きなのが前提ですよね。皆さんはもっとそうでしょう。コミケで青春を過ごした人もいるかもしれないし。もう我々の世代にとって、漫画がベーシックな教養であるのは確かなのですが、頭でっかちになるとそこから逃げられなくなってしまうので、そういう人は出版社は嫌います。つぶしがきかなくなるという点でね。

 

奥村氏 知識ばっかり詰め込むと実戦で使えなくなるんですよ。漫画の事はよ~く知ってるけど、漫画家とろくに話せない編集ってどうやねん、と。使い物にならないですからね。

 

岩井氏 漫画を知っている分だけ、漫画家に会ったら嫌になるかもしれないし。必ずしも「いい人」ばっかりじゃないから。

 

奥村氏 アイドルが好きでアイドルの事全部調べ上げて、それでアイドルとどうやって仕事すんねん、って事になるからね~。

 

岩井氏 ほんとに漫画家さんって個性強いから。一般常識では考えられないような事やるからねえ。例えば、ある漫画家さんに「原稿あと何枚ですか?」って電話をしたら、「あと6枚であがります」って言われて、取りに行って、仕事場で原稿用紙を数えてたら、「あれ、10枚くらい足りないですよ」ってなって。そしたら、その漫画家さんが、「…え!? あ、こんなところに白い紙が…」って机の下からなにも描いてない原稿用紙を(笑)。

 

奥村氏 俺が編集になって、最初に担当したのがそいつやねん。Kっていう・・・。

 

岩井氏 実名出したらダメ!(笑)

 

奥村氏 だってねえ、30歳超えた大人が、堂々と人を騙すんですよ、信じられん。締め切り間際のシャレにならん時にそんな事やられたら、今まで築き上げてきた人生観、ガーッと吹っ飛ぶよ。「嘘、え~っ!?」って(笑)。電話線引きちぎったりとか、当たり前のようにやるからな~。

 

岩井氏 本っ当にひどい目に合うから。もちろん中にはちゃんとした人もいますけど。本当にきついので・・・。何でこんな話してるんだっけ?(笑)。とにかく、あんまり頭でっかちだと、そういう作家をものすごく嫌になってしまったり、あるいは逆に、その作家に帰依してしまって祭り上げて神様にしてしまうとかね。

 

奥村氏 それが最悪やな。若い世代の悪いパターンは、意識がその漫画家のマネージャーになってしまう事やね。

 

岩井氏 編集長が「原稿どうなってるんだ」って言ったのに対して、「いや、先生はこう言ってますから」。出版社から金貰ってるんじゃないのかと。原稿ひっぺがすのが仕事なのに、漫画家に帰依してしまっていて、「でも先生が、でも先生が・・・」って。知らねーよ、と(笑)

 

奥村氏 その先生が、一生そいつを食わせてくれるんならいいんですけど。そのままマネージャーになった例もあるし。

 

岩井氏 だから、頭でっかちにならないように。今は皆さんは、「漫画編集者ならなんでもいい」と思ってると思うんですね。就活前だし。でも、メジャー誌だったりマイナー誌だったり、4コマ誌だったり、漫画編集っていってもいろいろあるから。僕と同期でF社に入社した奴は、いきなり4コマ誌に配属されて、当時そこは編集部に編集長ひとりしかいなかったから、新入社員なのに仇名が「副編」になって(笑)。4コマ雑誌なので、いきなり担当が30本、みたいなね(笑)。そういう状況になると、いわゆる漫画の編集者と仕事が全然違う。

 

奥村氏 違うね。大体4コマ誌なんて2人か3人やもん。それで作れてしまう。月刊誌は大体実働4~5人くらいかな。週刊誌だと20人くらい。各々で仕事の動き方が全然違うんですよ。20人くらいだとチーム戦ですね。4~5人ならテーブル一つあれば会議できてしまうし、一人で複数担当するのが当たり前で。まあ、そんなことを今から考える必要はないけど。ただ、そういうものだと知っておいて損はないと思います。いざ入って「全然違うぞ」となっても困るし。

 

岩井氏 皆さん、自分の生活のリズムを持っていると思うんですね。定期的に芝居を観に行きたいとか、テレビは最低1日2時間観たいとか。でもね、それは基本的に、全部無理になります。それはもうしょうがない。僕は秋田書店に入社したときに、これも恥をさらして言いますが、軟弱にも「週刊誌は忙しそうだから嫌だな」と思ってしまったんですよ。だから、月刊の少女漫画誌を希望して、自分のフリーの時間を持ちたい、と思っていたんですが、同期も皆そう思っていたらしくて、第2希望だった『チャンピオン』編集部に行け、と言われてしまって。今ではそれがよかったと思っていますが。簡単に言うと、漫画編集は家でテレビ観ているより全っ然面白いですから。これは、月刊誌や女性誌が悪いという事ではないですよ。

 

奥村氏 月刊誌は月刊誌で、作りこんでいく楽しさがあるわな。週刊誌は常に躁でお祭り状態。少年漫画というのは、そういう雰囲気から生まれていくもんやと思ってもらっていいですね。月刊誌の場合は、作家と細かいところまでチマチマと打ち合わせやってね。

 

岩井氏 そういう面白さもあるので、どちらに進んでいくかはわからないですけれど、「こうだ!」とあまり頭でっかちにしない方がいい。どんな仕事でもゼロから学ぶんだ、という気持ちでね。ただ、ホント、生活は変わるね。

 

奥村氏 映画作ってる奴が映画観てる暇ない、漫画作ってる奴は漫画読んでる暇ない、とそういうジレンマがあってね。ほんとは見ないといかんのやけどね。

 

岩井氏 映画も観たほうが良いし小説も読んだほうが良いんだけど、いわゆる学生時代の生活はできないですよ、当たり前の話ですけどね。…他に何を話しましょうか? レクチャーよりも質疑応答的な感じがいいんですかね。…あ、皆さん、ここで聞いた話をブログとか2ちゃんに書いたりしちゃ駄目ですよ!(笑)。喋る事と文章では温度差というものがあるのでね。皆さんは僕らよりネットに接していると思うので・・・やめてね(笑)。でも、奥村さんはほんとにネットはニュースくらいしか見ませんね。

 

奥村氏 怖いねん。なんかね、人に見られてるでしょ。書き込まれたりとか。

 

岩井氏 うちのホームページに入れないからね、奥村さん。「どうやって入るねん」だって(笑)。パスワード3回くらい聞いてるでしょ?

 

奥村氏 忘れてまうねん。

 

岩井氏 どういう話がいいですか? 就職活動的な話がいいのか、他の話でもいいし。

 

 

司会  僕は、優秀な編集者さんとはどういう人なのか、というのを伺いたいですね。

 

岩井氏 例えば奥村さんは、僕の上司だから言うわけではなく、「天才編集者」だと思っています。まあ、「天然編集者」かもしれないですけど(笑)。要するに、周りができない、奥村さんにしかできない漫画を起こすので。奥村さんが以前担当していて、僕が次に担当したある漫画家さんが、「奥村さんと組める漫画家は、天才じゃないともたない」ってコボしてて。それを奥村さんに話したら、平気な顔して「だって俺、天才しか好きやないもん」って言う人だから。でも、「数字こそが大事だ」と言う編集もいるでしょうし。僕等なりの考えしか答えられないですが。

 

奥村氏 こういう娯楽の世界に携わって頑張っていこう、という奴はね、「骨絡み」じゃないとあかんよね。どういう事かというと、これがないと生きていかれへん、というね。これがあると、作家と響き合います。優秀な作家ほど「骨絡み」なんです。「こいつから漫画を取ったら、ほんとにただのクズだな」という人が、ほんとに素晴らしい作品を描くことがある。そういう奴と響き合おうと思ったら、やっぱり自分も真剣に付き合わないと駄目です。どういう「芸風」でも構わないと思うんですよ、作品に対するアプローチが、自分の「信念」であるか、「技術的なもの」であるかとかは。それは方法論でしかないんで、1000人いれば1000通りあるでしょう。ただし、姿勢として「骨絡み」であるぞ、と。わかりますか? 上っ面でなくて、自分の全体重を乗せてるぞ、というね。そうすれば作家と響き合えるし、喧嘩になってグチャグチャになっても付き合えるんじゃないか、という気はしますね。僕等が一番嫌なのは、「○○て作家おったな~。あいつ今何やってんのかな~」というの。そうゆうんじゃなくて、よその雑誌でやっていてもいいから、そいつが頑張っていると、「あ~、よかった」と思うんです。もちろん自分のとこで稼ぐのが、一番いいんですけれども、そうじゃなくても、描き続けてくれて頑張ってくれているというのが、やっぱり一番嬉しいんですよ。大体僕等は、才能ある奴しか惜しいとは思わないんで、才能のない奴は忘れてしまいますよ。これだけ才能あって、もうちょいやったらうまく世の中と響き合ってハッピーになれるんちゃうの、と思ったのに、うまくいかなかった人、こういうのなんかは一生忘れないですね。そういう奴等と一生懸命響き合っても、それでもうまくいくかわからない、だから「骨絡み」で勝負して欲しい、というのが僕の希望ですね。

 

岩井氏 「優秀な編集者」かあ。ほんとに編集者によって違ってくるとは思うんです。例えば『IKKI』の編集長の江上さんは、我々の世代では『伝染(うつ)るんです。』とか『サルまん』とかを担当して「ギャグの江上」と言われていた人です。で、それと平行して『東京大学物語』とか土田世紀さんの『俺節』とか、「うわ~、面白れ~漫画だな~」と僕等から見てもキレまくっている編集者だったんですよ。だから僕は、江上さんは優秀な編集だと思うけど。とにかく、僕等は、大変傲慢な言い方になるから話半分に聞いていただいていいんですけれど、漫画を編集者で見ますね。

 

奥村氏 見るね。

 

岩井氏 漫画家で見ていないところが、どこかである。「この編集が起こすんなら、面白いんじゃねえか」って。

 

奥村氏 映画を、プロデューサーや監督で見るようなもんやね。

 

岩井氏 例えば、僕が今一番いい漫画編集者なんじゃないか、と思うのは、同期で秋田書店に入社して今『週刊少年チャンピオン』で編集長をやっている沢という男なんですね。彼は『週チャン』で『グラップラー刃牙』を起こして『覚悟のススメ』を起こして、『ヤングチャンピオン』に移動して『エイリアン9』を起こして『松田優作物語』を起こして、で、『チャンピオンRED』の編集長になって『シグルイ』を起こして、車田正美さんとも仲良くして。『シグルイ』は僕にとって、ここ数年でこんなに面白い作品はないな、と思うような傑作です。いや、ほんとに「あいつが担当なら面白いな」という目で見ちゃいますね。

 

奥村氏 漫画って普通、担当編集者の名前が載ってないじゃないですか。でもわかるね、「これあいつだ」って。

 

岩井氏 大体わかる。

 

奥村氏 「この粘つき方、あいつの癖やな」とかね。

 

岩井氏 漫画家さんによっては、もちろん編集に関係なく、長期連載作品で担当が途中で変わっても面白いものは面白いわけだから、一概には言えないけれども。

 

奥村氏 でも、マジであるよな。作家に対する追い込み方みたいなもんが変わると、作品がまったく機能しなくなる事って、結構多いんですよ。なんかスーッと抜けてるな~、と思ったら、やっぱり担当編集者が変わったのか、と。

 

岩井氏 職業病みたいなものかもしれないですが、やっぱり漫画を編集で見ることはありますね。

 

奥村氏 例えば、雑誌一冊読んで2~3個光ってるのがあったら、1人気合いの入った素晴らしい編集がいるな、という風に感じますね。そしてほぼ間違いなく、ほんとにいます。

 

岩井氏 もちろん、気合いの入ったキレまくる編集者になるのもいいことだけど、別にそうでなくてもいいんですよ。漫画家を柔らか~く包む編集とか。ここにいる皆さんが全員漫画編集者になるとしても、それぞれの個性で漫画を作っていけばいいとは思いますね。

 

奥村氏 新人さんがよく持ち込みに来るんですが、駄目なら「これはつまらない。面白くない。漫画家に向いてない」とハッキリ言いますよ。プロのスカウトですんで、僕等。そりゃね、やっぱり初対面の人にはきつい事言いたくないじゃない。だからってへたに「救い」を出してしまうと、皆そこにすがるんです。それはやばい。例えば、100m走らせたら15秒かかるし遠投も駄目…とか、そんなスポーツ選手に救い出したらいかんやろ、と。最初はきつい事言いにくいねん、当たり前の話やけど。でも「別に編集は俺だけではないな」と思った時に変わりましたね。「“俺が思うに”あなたは絶対駄目」と言えるようになった時に、スーッと気が楽になりましたね。やっぱり言うてやらんと。自分に駄目と言われても他の人に拾われて、OKになる事もありますよ。それはその人の自由じゃないですか。でも今、目の前にいるのは俺なんだから、俺が言うてやらんと。モゴモゴ言ってちゃいけないです。

 

岩井氏 もしかしたらこの中には、音羽とか一ッ橋とかに入る方もいるかもしれないですけど、あんまり天狗になったりせずね、「痛み」を知ってあげてください。スポーツとか表現というのは、「才能」があるじゃないですか。これはどうしようもないよね。僕等の人生は、基本的に努力すれば報われるんですよ、基本的にはね。でも、スポーツとか表現の世界は違うから。どんなに努力しても、どんなに良いやつでも、無理な人は無理です。そういう人間の「痛み」を知ったうえで、それをハッキリと言ってあげないと。

 

奥村氏 ヘボい漫画でもね、素人さんが描くのには2~3ヶ月かかるんですよ。端にも棒にもかからんけど一生懸命描いてるのよ。それだけ人が身を粉にして作ったものを、「駄目」と言うのは辛いけれども、やっぱり言うたらんと。そこで「救い」を出してしまう事で、30代40代までズルズルいってしまう事もあるんで。今はフリーターという便利な言葉がありますけれども。

 

岩井氏 これが質問の答えになっているかはわからないですけれど、個人としては、格好つけて言う事になるかもしれませんが、ガキの頃からずっと漫画を読んでて、僕はそこで「救われた」と思ってるんですよ、いろいろな事でね。その時の救ってもらった「自分」に対して、恥ずかしくないような漫画を作りたいと、いつも思っているんですね。そういう思いをブレずに持つことができる人が、「優秀な編集者」だと僕は思う。いるんですよ、大学の時にきったない風呂なしのアパートに住んで、授業に出ずに『ボーダー』読んでね(笑)、それで編集になって「狩撫(麻礼)さん、狩撫さん」て語り続ける…。

 

奥村氏 わしやないか! …でも、その通りやね(笑)

 

岩井氏 そういう「救われた」当時の自分に、恥ずかしくないような仕事をしたいな、と思うし、それはどういう形でもいいよね。『げんしけん』を読んで、「生きていってもいいよ」と言われたように感じて、助けられている人は確実にいるだろうと思うし。僕が担当した作家で、永野のりこさんという方がいて。『電波オデッセイ』という作品で苛烈ないじめを受けて心に傷を負った女性主人公が、白衣を着た男の子の幻想を持つんですね。何か辛い事があると、その幻想から「君は大丈夫だよ」と言われているように感じたり、そういう物語。僕は、打ち合わせをしていて、「この作品のクライマックスは、幻想の男の子から自由になるところにあるんですよね?」と言ったんですね。主人公が心の中に作った「逃げ場」を、自分で埋める事ができれば完結だな、と思っていたんですが、永野さんはハッキリと、「いや、オデッセイ(幻想の男の子)はずっといるんです」とおっしゃって。それは僕の中の物語観とは全然違うんだけど、でもね、それはそれで、すごくいい作品だったんだよね。あの作品に触れることで救われた人は、多分たくさんいるだろうと。いや、そんなにたくさんいなくてもいい、一人いればいいです。一人が変われば、世界は変わるから。俺はそう思います。そういう影響を持ちえた作品だと思うし。小学校の時とかに漫画を読んで、「面白いな~」って思った経験とか、「俺も頑張ろう」と思った事とかね。皆さんもそうでしょう? そういう「自分」に対して恥ずかしくない仕事ができる人が、いい編集者だと俺は思いますね。ちょっと抽象的かもしれないですが。でも、数字は出さないと駄目ですよ、食っていけないからね。これは本当に大事なんです。思いばっかり強くなって数字なんかどうでもいい、って思ってる人がこの業界にも時々いるけど、やっぱりそれは駄目。

 

奥村氏 ソロバンを横でちゃんと弾けないと、作家も自分も食えないからね。自分がいいと思った作家をどうやって食わせるか、と考えるところから始まるから。しっかり原価計算して、100円でも200円でもいいですよ、皆を食わせて諸経費払ってその上でお金が100円200円余りましたよ、と。そうしたらこの世界で生きていっていいという事なんじゃないかな、と僕は思いますね。日々生活するのに1000円かかる奴が毎日900円しか稼げなかったら、生きていけないですから。それ以上稼いでベンツ買ったとか海外に別荘建てたとか、そんなんはどうでもいいからね。

 

岩井氏 僕がぺーぺーだったときに先輩に言われたのは、「お前ら、作家と友達付き合いするなよ」と。ヒット作が出ると、生活レベルが変わりすぎるからです。だって飯を奢ってたりしてた人が、収入で言うと自分の50倍とかになるからね。それはもうしょうがないから。普通の感覚でいくと持たないから友達付き合いはするな、と。納得できなくなるから。そうかと思うと一生食えない奴もいますしね。基本的にはさっき奥村さんの言った通り、利益がちょっと出ればいいです。それを繰り返していく中でヒット作が生まれていくから。

 

奥村氏 最初から食える奴はいませんからね。食えない才能のある奴を食べさせられればいいでしょうね。

 

岩井氏 僕と奥村の体制になって8年くらい経ちますけれど、自慢じゃないけど、1回も赤字出した事ないからね。

 

奥村氏 商売にならなくなって潰れたら、会社内に他に漫画の部署がないから、俺等は御役御免ですよ。作家連中は、皆路頭に迷いますわな。

 

岩井氏 いろいろやりながら、意地で黒字を出し続けたんで、今、漫画編集者としてやっていけてますけど。

 

奥村氏 この先どうなるかはわからんけどな。

 

岩井氏 それはそうです。ただ理想だけだと食えないし。理想がないとやっててもしょうがないし。

 

奥村氏 稼ぐだけなら、もっといい商売はなんぼでもあるしな~。

 

岩井氏 すごいお先真っ暗な話をすると、はたして漫画っていつまであるのかね?

 

奥村氏 それはわからん。例えば漫画という文化ができた事で、紙芝居というジャンルがなくなったよね。

 

岩井氏 今多くの出版社が、漫画のデジタルコンテンツ化というのを進めているんですね。僕自身は、かなりの試行錯誤とリサーチの末に、「それはない」と結論付けているんですが。漫画はこうやって(ページをめくる仕草をしながら)読むもんだと、ほぼ確信を持って思っています。ただ漫画の中で培われてきたキャラクターや構成力が、ゲームやネットの中でそこに合った作品として生まれ変わる事は十分にあると思いますけど。今紙で読んでいる漫画をスキャニングしてネットで配信する事に、ほとんど意味を感じないんですよ。資料として残す意味はあるかもしれないけれども。だって、雑誌とか本ってランダムアクセスでしょ、どんなスピードで読んでもいいし、どこから読んでもいい、読み終わったらどこに置いてもいいじゃない。漫画読むために、いちいちマシン立ち上げて、ネットに繋いでダウンロードするのか、と。携帯で1コマ1コマ読んだりね。それは意味がないと、僕はずっと前から思ってて。漫画には漫画独自のアドバンテージやクオリティがあって、それとインターネット的機能との整合性は、そんなにないな~、と。

 

奥村氏 紙媒体は、皆が思っているよりも強いですよね。コストを考えるとデジタルうんぬんより下手すりゃ安上がりで。漫画の紙なんて再々生紙とかやからね。お金もかからないし紙の方がいいという感じはしますけどね~。

 

岩井氏 漫画は紙で読むものだと僕は思うんですけれども、その一方で、時代の問題として、本を読むとかページをめくるというライフスタイルが変わってしまえば、現実問題として漫画という形態がなくなってしまうかもしれないですので。

 

奥村氏 電車の中は、皆これ(携帯をいじる動作をしながら)やもんな~。

 

岩井氏 皆さんそうでしょ? うちの浜村社長と飲んだ時に、「今の漫画業界の一番の敵は携帯なんですよ」という話をしたら、浜村さんから「いや、それは違う。全てのエンターテインメントの敵が携帯なんだ」と言われました。高校生で下手すると月に1万から1万5000円は遣っている。そしたら他に金が動かない。

 

奥村氏 漫画にしろ書籍にしろ売り上げが下がっているのは何でですか、って取材で聞かれたら、「お前知らんの? 携帯やぞ」て答えてますね。取材してる側はそれに気が付いてない。例えば10年前に携帯持ってウロウロしてる奴がどれだけいたんだと。

 

岩井氏 ただ漫画や書籍は置く場所がね~。「読む」というアクセスに対しては、非常に軽便で安いものなんですが、場所をとる。デジタルで焼きたい気にならなくもないですね。

 

奥村氏 雑誌は捨てればええけど、単行本はな~。

 

岩井氏 今過渡期ですから。この間も編集部で、「漫画の原稿は貰って来たら、電車の網棚に置いちゃ駄目だ。忘れないように絶対手から離すなっ」とか、若い編集者二人に言ってたんですが、その若い子二人の担当は、原稿が全部デジタルなんですよ(笑)。言うだけ無駄。「原稿はサーバーからダウンロードしてます」「…ああ、そうか」なんて言って(笑)。制作サイドは半分くらいデジタルになってますね。読むほうの変化によって、漫画というメディアが消える可能性は否定できないですけれども。

 

奥村氏 漫画家が漫画的なものを描くという姿勢は、もう変わらないと俺は見てるんやけどな。

 

岩井氏 アニメーション的漫画が、デジタルで軽便に作られてネットで配信されていくような仕組みはできていくでしょうし、あるいはキャラクターを作ったり映画に流れていったり、色々な形で漫画的才能の生き残りはあるでしょうね。でも、漫画という媒体自体は、10年後は大丈夫だろうけれど20年後はわからないです。

 

奥村氏 世の中の流れ次第。例えば、今アフガニスタンで漫画を売って誰が買うねん、と。日々生きていくために精一杯の状況で、漫画に金使うアホはいてないですよね。それで、日本が10年先にどうなっているかとなるとわからんし。最初に言いましたけど、娯楽というのは真っ先に削られてしまうものなんで、国の政情とは切っても切れない。ただ僕は漫画のルーツってどこにあるのか、と考えた時に、浮世絵あたりかな、と考えるんですね。長屋に住んでる版元と絵師が「最近どんなの売れてる?」「あそこの花魁が受けてるで」「よっしゃ描こか」とか「旅ものが受けてるで」「よっしゃ五十三次描こか」とかね。そういう形態は昔からあったし、多分これからも変わらんでしょう。漫画の形態が変わっても、僕はいいしね。やっている内容が変わらなければ、形なんて別に、という人間なんで。ただ漫画雑誌に関しては、内心忸怩たる思いがあるんやけどね。

 

岩井氏 何か他に質問があれば。

 

奥村氏 何でも聞いて~。

 

学生  ビーム100号の時に編集長が「今までずっと『編集が好き勝手やっている雑誌は持たない』と言われてきて、それに反発してやってきた」と書いていましたけど、編集がやりたい放題やる雑誌とそうでない雑誌の違いは何なんですか?

 

奥村氏 まず、最初の「何を目的に雑誌を立ち上げましょう?」という段階から関わってくる話なんですよね。例えば、『ビジネスジャンプ』という名前で立ち上げた雑誌に、会社ものがまったく出てこなかったら、「何がビジネスやねん」という話になるのでね。『ビーム』立ち上げの時点では、僕は編集長ではなかったけれども、「枷作るのかな~」と思ってたらなかったですね。

 

岩井氏 一応あったんですよ。「マンガとゲームがドッキング」というのが。

 

奥村氏 それは全然うまくいかなかったんで。まったくドッキングせえへんかったんで、もう何にもない。じゃあやりたい事やったろか、という事で、その時その時の「雑誌が何をやるべきか」みたいなのをね。ビーム作る時に、「『ジャンプ』みたいなのを作ってくれ」と言う役員も、中にはおったんやけれども、「それは無理ですわ」という話でね。それが命題としてあったのなら、作り方は全然変わってくる。まずこれだけ稼がないかん、というように会社全体を背負っていくような事になったら、今の僕等のような事はできない。「やりたい事をやったら潰れるよ」という言い方は、多分「マニアックな事をやったら、客に引かれるぞ」というのが変わっていって、最終的には「やりたい事をやったら潰れるぞ」になったんだと思いますね。カウンターカルチャーの雑誌以外はそうすべきだ、という風潮が、その頃とても一般的だったんですよ。僕はそれに反発を覚えていて、「やりたい事をやっていてもソロバン勘定くらいはやれんでもないやろ」というのがあったんで。やってしもうたらこっちの勝ちなんで。「やりたい事やっちゃ駄目だ」て信じてる人でも、俺が成功したら「おお、やったろかい」ってなるだろうし、わりとそういう使命感みたいなのはあったんですね。実際どこまでやれているかというと、まだ全然道半ばで。ただ、僕等は仕事して継続していく事が、それの証明になると思うし、継続せん事には何言っても駄目だし。それが僕等の日々の闘いではないかと思いますね。

 

岩井氏 例えば『ジャンプ』は、今ちょっと崩れてきてるけど、人気投票を大事にするじゃないですか。それで、今ジャンル誌というのは比較的王道ですよね、ビジネス誌でも萌え系でも何でもいいですけど。そういう枷をはめないでやる雑誌っていうのはもたない、というのは、ずっと言われてたんですよね。それに対して奥村さんは、「そんなことはない」と考えてそんな事を書かれたのではないか、と僕は思いますね。例えば、萌え系4コマ、あるいはサブカル、そういう風に決めてしまうとそれはそれで楽なんですよね。打ち込みどころがあるわけだから。そういうマーケットの絞り込みや、「今これが人気だ」と人気投票的に作る、という事ではなくて、編集者が1本1本「これがおもろいと思うから載せるねん」という姿勢で作ると、常識で考えるともたないんだけど、それでなんとかやったらぁ、というのが、そこに出ている発言だと思いますね。でも、それは実際に非常に困難なやり方だと僕は思いますよ。

 

奥村氏 そんなにぎょうさん売れてるわけでもないしの~。

 

岩井氏 僕は副編なので、台割といって掲載作品の順序を決めているんですけれども、例えば週刊少年誌って、今基本的に漫画が奇数ページなんですよ。専門用語で「片起こしの奇数ページ」と言いますけれども。左ページから始まって見開きで終わる。そして1ページ広告を入れて、また漫画が始まる。なぜそうするかと言うと、今の漫画は1ページ目に扉を切らない、つまり、作品名と作家名を入れるページを切らないんですね。そうすると、前に読んでる漫画と後ろに読んでる漫画が混じって、そのまま読めちゃう場合があるのね、絵柄や世界観がそんなにずれてなかったりすると。それを避けるために、見開きで終わる傾向がある。『ビーム』は、ある種の誇りを持って言うけれども、絶対に混じらない。必ず漫画が変わるところで、絵柄も作品世界も変わります。「たかだかその程度で作品が混じるのか、お前らは。おんなじような漫画ばかり載せるからだ」とか思いますね。まあ小さい出版社なので、敢えてひがみ半分で言いますけれども(笑)。ジャンルを絞り込んでいけばそうなりますよね。 他に何かご質問は?

 

学生  山川直人という人の連載を始めた事に凄く感激しているんですけれども、どのような経緯で始められたのでしょうか?

 

岩井氏 山川さんの持ち込みです。山川さんはよく「僕が持ち込みしたのは『ガロ』と『ビーム』だけ」と言いますね。僕は山川さんとは、ずっと前から知り合いだったんですけど。連載のきっかけは、持ち込み。そういえば、新しい企画を起こすとき、コミケやコミティアに行って新人を探す、という事を僕はしなくなって久しいですね。以前は毎回コミケに顔を出してましたよ。「上手いですね~」とか言ってたらS社で描いてるプロだったりね(笑)。でも、今もマメにそういう事をする人もいます。コミティアの創作系から引っ張るのが得意な方もいれば、オタク系が得意な方もいるし。そういうところに強みがあるっていうのは、その編集者のアドバンテージだから。

 

奥村氏 そういうバックグラウンドの人脈に対して、編集部側から口を出す事は一切ないですね。食いぶちは自分で探すもんなんで、人にああせいこうせい言われなくてもね。その人の事が好きじゃないと、人脈なんてできないでしょ。

 

岩井氏 最近、よその出版社が、うちを「草刈り場」だと思ってるんだよね。凄いマメに電話かかってくるし。

 

奥村氏 それで俺も連絡先教えるからな。器が小さいと思われるから「教えたらぁ」てね(笑)

 

岩井氏 ある出版社のある編集部は、「ビーム症候群」て言われてるんだって。新人編集者に企画を出せって言うと、うちの本を持ってきて「この人とやりたい」っていうのが凄く多いっていう。腹立つな~。

 

奥村氏 まあ引き抜かせませんけどね。

 

岩井氏 俺は抜かれたことある(笑)。まあ、人脈も編集者の実力だから。もちろん、こちらから声をかける事もありますし。

 

奥村氏 作家との関係をどうすればいいかは一概には言えなくて、自分の感覚でやっていくしかないな。

 

岩井氏 もしあなたが編集者になれて仮に少年誌に配属されたとして、変態エロ漫画家にオファーをして作品を出したら成功した、みたいなケースは実際いっぱいあるし。そういうやり方を否定はしません。他には質問は?

 

学生  漫画には、急に終わらせられたり、無理に続けさせられたりするのがあると思うんですが、編集部はどういう基準で判断してるんですか?

 

奥村氏 うちは基準は特になくて。「ここまで描ききったらもうええかな」というのはもちろんあるけど、単行本やってみて「もう採算合わんな」といって終わらせるケースもありますよ。ソロバン勘定で終わらせるケースも、話の区切りで終わらせるケースもある。大体どちらかですよ。

 

岩井氏 でも編集部によっては違うかな。うちはほんとにそうです。アニメにもなって大きな売り上げを出してくれた『エマ』という作品があるんですが、アニメ化の際に、奥村さんはハッキリと「早く終わらせたらなあかん」と言いました。普通はズルズル続けますよ。その作品が終わったら、雑誌潰れるみたいなことがあるから。だから、雑誌を生き残らせるために必須という作品に残念ながらなってしまえば、それは終わらせられない事もあるだろうし。まあ、うちの奥村さんには、作家の意志をねじ曲げてまで続けるつもりはないです。でも、逆のパターンで、仮に奥村さんが『スピ●ッツ』の編集長になったとして、『美●しんぼ』を終わらせられるかというとね。

 

奥村氏 終わらせられるよ、俺(笑)。楽勝(笑)。多分俺の編集者生命もそこで終わらせられるけどね(笑)。

 

岩井氏 まあ、それは編集部によっても違うし。『三こすり半劇場』って雑誌で岩谷テンホーさんの連載終わらせることは、ないだろうしね(笑)。とにかく、今のうちは、そういう方針。

 

学生  漫画家さんによっては、内容に口出しされるのを嫌う方もいると思うんですけれども、どんな距離感をとってやられているんですか?

 

奥村氏 ほんま人それぞれ。突っ込まれるのを嫌う人にはこれくらいの距離で、でも突っ込まざるを得ない時にはどうするか、ちゅうのを常に考えながらね。ボクシングと一緒で、相手によって間合いとか変わってくるじゃないですか。それに合わせてこっちも動いて距離を測る、その加減ですわ。対人関係って皆そうじゃない。まあ、自分の描いたもんを突っ込まれるのが好きな奴は、そういないですよ、鍛えて欲しい新人は別にして。ただ「こいつの言う事だったら聞いてもええな、無視したら俺のためにならんな」と思わせるように付き合っていくという風に、僕なら対処しますね。嫌がるからほったらかしというような事は、僕はしません。岩井もそうでしょうね。

 

岩井氏 まあ、口出ししなくてもいい漫画ができるんだったらそれでいいんだから。別に口を出すだけが編集の仕事じゃないから。

 

奥村氏 もうそこで完成してれば、文句言う筋合いないわな。あとは、完成したものを編集がどう評価して雑誌に載せるか、という問題でしかないからね。

 

岩井氏 編集部によって違うと思いますよ。例えばある漫画家さんが・・・、名前出しちゃっていいのかな?

 

奥村氏 やめとけ。

 

岩井氏 『●●●●』の作者の方なんですけれども。

 

奥村氏 おい!!(笑)

 

岩井氏 『M』で連載してた時は、「ネーム見せるのが嫌だ」って言ってギリギリまで見せない。だから執筆が間に合わなくて結構落ちたのね。でも『●●●●』になってからは、全然落ちない。『Y』はそんなにうるさい事言わないから。編集部の姿勢によるんですね。

 

奥村氏 『Y』は、大手にしては奇跡的に緩いな~。

 

学生  少年誌だとネームのチェックがものすごい厳しいのに、青年誌だとゆるゆるで逆に不安になった、と漫☆画太郎先生のインタビューで読んだんですが。

 

岩井氏 それは『ジャンプ』と『チャンピオン』の差とか、担当編集の差もあると思うんだけど。基本的には編集長の方針ですね。やっぱり少年誌というのは、わかりやすくしなければいけないというのは常にあります。青年誌は、ある程度わかりにくくても読者に咀嚼力があるだろう、と。

 

奥村氏 でも、今は『マガジン』と『ヤンマガ』で読者の年齢層が重なってて、下手したら『ヤンマガ』の方が下だったりするんじゃねえ?

 

岩井氏 まあ、ベーシックとして、少年誌の方がわかりやすくしようという意識はありますね。

 

奥村氏 ルビ振ってるしな。

 

岩井氏 例えば、作品で「IT」をテーマにするのは、青年誌ならいいけど少年誌だとあんまりねえ。小学生もいるわけだから。ただ、作家が「嫌だ」って言ってくるのは、そういうテーマ的なところではないことが多い。もっと細部。「この顔が・・・」とかね。作家によっては、神経使いますね。どんな地雷を踏んだかわからない時とかあるし。「どの地雷踏んだんだ?」ていうくらい怒られる時とかあるんで。

 

奥村氏 普通に踏んでも爆発しないのに、絶対踏まんようなところでボーンて爆発する作家との付き合いなんかは、それはそれで面白いんやけどな。「何を怒っとんの?」というね。

 

岩井氏 これは名前を挙げると極めて危険なんだけど、ある編集が、ある有名な少女漫画家さんの所へ初めて行って、その人の代表作を「僕、あれ大好きなんですよ」って言ったら、「じゃあ、今連載してる漫画はつまんないって言うの!? 編集長呼んできなさい!!」ってなって、謝りに行ったりとか(笑)。

 

奥村氏 最悪やん。お世辞言ってキレられてる(笑)。初対面ならお世辞くらい言うわな。

 

岩井氏 実際、心から好きで言ってるのにね。

 

奥村氏 多分そいつの風貌が気に入らんかったのかと思うけどな。

 

岩井氏 奥村さんは、具体的に言われた編集者と言った漫画家を知っているので、そういう事を言っていると思うんですけれども(笑)

 

奥村氏 ジャニーズ系の奴が同じ事言っても、絶対キレへん。

 

学生  先程「赤字は出した事ない」と仰いましたが、それは雑誌単体でですか?

 

奥村氏 無理。

 

学生  コミックスを出す際にその発行部数はどうやって決めるんですか?

 

奥村氏 それは原価を考える前にまず営業と相談するかな。

 

岩井氏 経験則の中から、基準となる部数を、B6と言ってわかるかな? B6等のそれぞれのサイズの基礎部数のようなものを作るんです。データのない新人はそこに当てはめます。1回本を出せば、その売り上げがデータとして残るので、それを元にその作家の次の作品の部数を決める。今の「雑誌単体で黒字が出るか?」って話なんだけど、前に聞いた大手のK社の編集の話だと、「K社の全漫画誌の中で、雑誌単体で黒字が出ているのは2誌」って言ってましたね。30~40誌出てるはずだけど、ほとんど雑誌単体で黒字にはならない。『ビーム』はもちろん雑誌単体では真っ赤っ赤です。

 

奥村氏 燃え上がっとるね(笑)

 

学生  損益分岐点というか、実売率はどのくらいに設定されてるんですか?

 

岩井氏 そういう事を考える事自体に意味がないと考えてます。なぜかというと、多分競合誌も同じくらいだと思うけれど、原価率が300%とか400%だから。つまり今の数倍刷って全部売れて、ようやくトントン。

 

奥村氏 という事は、採算分岐点なんてない。

 

岩井氏 そのポイントははるか遠いから(笑)。ハナから意図の中に入ってない。

 

奥村氏 原価取るには、多分1冊千円以上で売らんと。

 

岩井氏 今は刷った本が全部売れても赤字なんだから、採算分岐点なんてないよね。

 

奥村氏 原稿料っていうのは全部雑誌につくのよ。で、二次使用の単行本は印税だけやから。だから単行本で稼ぐ、みたいな仕組みには、どうしてもなる。雑誌単体の黒はほぼ奇跡やな。漫画の場合、広告もそんなに入らないでしょ。

 

岩井氏 でも、それは逆に、僕等漫画業界の人間の誇りでもあります。全メディアの中で「電通? 博報堂? 用ないから帰って」と言える唯一の存在です。

 

会場  おお~っ。

 

岩井氏 広告料に頼って我々は商売してないし、テレビでCMして漫画が売れた事はないし。つまり、広告代理店の意図とまったく関係がない。我々は、漫画家が描いたものを商品にして、それを読者の皆さんが数百円とかで買ってくれた、そのお金の集積だけで生きてるから。こんなメディアはどこにもないよ。

 

奥村氏 編集長を騙せば、もう後は作品として流通してしまうんですよ。こんなに緩いのは、多分小説と漫画だけかな。例えば「映画撮りたい」ってなったら、どれだけハードルあるの? ハードル飛ぶだけで2年くらいかかるよ(笑)。漫画は、漫画家と編集で、編集長騙したら終わり。俺が担当の場合は、誰も騙す必要がない(笑)。

 

岩井氏 だから、編集長が「やる!」って言ったら止められないんだよ(笑)。「え~っ!?」とか言いながら台割に入れる(笑)。

 

奥村氏 そりゃあ、オリジナリティあるでしょうよ。映画やテレビは、スポンサーとかいろんなとこから作ってる最中に口出されて、潰されていくんでしょ。漫画は「おもろい」という事で、ポーンとできてしまう。だから、映画やテレビは、皆漫画から色々取っていこうとするわな。何年かしたら、ハリウッドからオファーぎょうさん来よるで、マジで。そろそろアメコミのネタもないはずなんで。うちらは最小のコスト、最少人数でやってるから。実は、漫画やってておもろいのはそこなのよね~。そのゲリラ性が漫画の肝なんじゃないかな、と。

 

岩井氏 今質問していただいた事は大切な事ではあるんだけど、一方で大手、僕らのいた秋田書店あたりも含めた出版社は、現場の編集にコスト意識ないよ。僕はアスキー(エンターブレイン)に来て、初めて紙の値段、インクの値段を知りましたね。基本的に出版社って、金の動きをブラックボックスに入れちゃってる。編集者サイドからはわからない。

 

奥村氏 だから、会社全体がどのくらい儲かっているかなんて、実際のところはよくわからない。

 

岩井氏 僕らがいた秋田でそうなら、集英社、講談社あたりはもっと知らないでしょう。いくら売れてるか、も。僕もよく知らなかったし。「売れてる」のはわかるけど、具体的な数字は認識してなかったですね。これからは、編集もコスト意識を持った方がいいという気はしないでもないけど、そんなもの持っても邪魔かもしれないね。『ONE PIECE』みたいに初刷で200万部いくものと、100分の1の初版部数のものを、同じ定価で出すっていう事は、もう原価計算はないです。

 

奥村氏 ドンブリ勘定。流れ作業でやるから。

 

岩井氏 総体でいくら儲かっているかは、経営陣が握りこんでしまっているので、見えないんだよね。

 

学生  差し支えなければ、お二人が秋田書店を退職なさった経緯を聞きたいです。

 

奥村氏 前やってた雑誌が、社長に呼ばれて「もう潰す」って言って潰されて、どうしようと思ってたら、今のエンターブレインの奴等が来て誘われて。そこにシンクロニシティを感じてしまったから。「このタイミングは何かあるな」と。

 

岩井氏 僕は●●●●●さんの担当にさせられそうになったから、と聞きましたが。

 

奥村氏 それもあった(笑)。お前そういう事言うなよ!!(笑)

 

岩井氏 あの方の担当をさせられそうになったから辞めた、と聞きましたが。

 

奥村氏 当時の編集長が俺の横通りかかって、「おい、おめえいい体してんな。●●の担当だ!」て言われてな(笑)。自衛隊の勧誘か!(笑)

 

岩井氏 まあ、それは冗談で。実際はタイミングですよね。

 

奥村氏 こんないいタイミングはなくてね。僕はそういうの信じてしまうタイプなので。

 

岩井氏 奥村さんがやっていた『グランドチャンピオン』という雑誌が潰れて、『プレイコミック』に移って。青年向けのジャンル誌ですから、なかなか自由にできない、とイライラしてらっしゃった事もあって、誘いは渡りに船だった、と。

 

奥村氏 こいつ(岩井)は、アメリカに逃げよった。

 

岩井氏 逃げてないって。僕はニューヨーク大学というところに行きたいな、とずっと思っていまして、秋田書店を辞めて。…なんか格好つけてるみたいで嫌だな(笑)

 

奥村氏 いろんな人間関係で問題起こしたんですよ。

 

岩井氏 起こしてないよ!!(笑) 当時うまい具合に担当作品が全部一区切りついて、「行くなら今かな」と思って、30歳で辞めました。

 

奥村氏 お金どうこうもあるんでしょうけどね。人はタイミングで動く事も結構あって。そういうのは縁の問題で、あんまり邪険にせん方がいいね。

 

岩井氏 奥村さんも、『グランドチャンピオン』が続いてたら、『ビーム』来てないですよね?

 

奥村氏 100%来てない。

 

岩井氏 僕は、ニューヨークにいたら、奥村さんから電話がかかって「手伝え」って言われてね。ちょうどその時、僕は住んでた部屋から出て行かないといけない時で。じゃあ帰ろうかと。やっぱりタイミングですね。声がかからなかったら、いまだにアメリカをプラプラしてるかもしれないし。

 

奥村氏 俺の殺し文句が効いたやろ。

 

岩井氏 なんだっけ?

 

奥村氏 「お前そろそろ打ち合わせしたいんちゃうん?」って(笑)

 

岩井氏 ああ! 打ち合わせはしたかったな~。これはほんとに面白い。

 

奥村氏 したいよな~。銀行強盗みたいなもんでね。世間をたぶらかすために、俺等は全知全能をかけて打ち合わせをするわけですよ。楽しいぜ~~~(笑)

 

岩井氏 編集離れると、打ち合わせはしたくなるね~。

 

奥村氏 なるな~。ワクワクするで。そういう事を皆さんができるようになる事をお祈りしつつ・・・。

 

 

司会  今日はどうもありがとうございました。