庵野秀明

 

 

プロフィール 

庵野 秀明(映画監督、アニメーター)

1960年生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像計画学科出身。

2006年よりスタジオカラー代表。

監督作『トップをねらえ!』『新世紀エヴァンゲリオン』『シン・ゴジラ』など

Twitter:株式会社カラー@khara_inc

ホームページ:庵野秀明公式ウェブ

 

(以下、会見録)

 

 

2000.12.5

 

人研  お忙しい中本当にありがとうございます。それでは早速会見の方に入らせていただきます。今回庵野さんにお会いしたいと思ったのは、縁がありまして、DAICONフィルムを高校時代に見る機会があったんですよ。これを撮ったのが大学生だと聞かされてものすごい驚愕したんですね。そこから庵野さんに注目し始めたんですけれど。エヴァンゲリオンにしてもラブ&ポップにしても、DAICONフィルムの頃の自主制作の手法を僕は感じたんですね。そういうところのこだわりについてお聞きしたいなと思ったんですけれども。

 

庵野  三つ子の魂百まで、というか、最初に自主制作をやってると、システムが出来上がってないんですよ、自主制作って。出来上がってないのにプロの真似事をして、自主制作なのに役を作らないといけない。監督やる人と、カメラまわす人と、役者やる人と、制作進行の人とか。友達関係とか仲間関係でできちゃったりするんですけど。最初にそれをやってしまうと、その人は制作だから制作しかやらない。自主制作は手があいてる人は何でもやるんです、別のポジションでも。プロになっちゃうと、撮影の人は撮影しかしないですよね。撮影の人が他のことをやるなんてまずないですよね。そういう部分がないところが自主制作のいいところなんですけれども。いわゆるプロの方が気は楽なんですね。お金出してりゃお金の分だけ働いてくれるし無理なこと言っても、こっちは金出してんだからいいじゃん、ていうこっちにエクスキューズがあるんですけど自主制作の場合はそうじゃない。DAICONフィルムで対談してるの。メインは阪大生でいわゆるエリートたちじゃないですか。それを一本撮るから留年してくれ、て言うわけですよ。留年覚悟で付き合ってもらうっていう。その大事な一年を犠牲にして付き合ってもらってるんだから、それだけのものにしないといけない。お金を払ってやる方がはるかに楽ですよね。その人の人生を預かってやってるんだから。

 

人研  大学生でも自主制作映画撮ってる人って結構いらっしゃると思うんですけれども、助監督制度のない今、実際職業として映画業界に入るっていうのは難しいですよね。監督への道が狭いというか、拾い上げるシステムがないって僕は思ってるんですけれども、実際にっかつロマンポルノとか、森田芳光さんですか、にっかつロマンポルノの方で美術を学んでいて、それでアートシアターギルド、ATGで、「家族ゲーム」で一躍脚光を浴びることになって、メジャーになったと言うか職業としての映画館と勲位なったと僕は思っているんですけれども、現状は自主制作の人を拾い上げるシステムはない感じですか?

 

庵野  いわゆる撮影所システムはもう10年くらい前に崩壊してるんです。でもそれはそれでいいんじゃないかと思っているんです。

 

人研  一つの時代が終わっただけで映画を撮りたい人は撮り続けてるってことですか。

 

庵野  映画というメディアは日本ではもう終わっているんです。終わったところで延命処置みたいなことを続けてる感じ。今時映画に行こうと思っている人は言ってしまえば取り残された人。

 

人研  でも死んだと言っていても庵野さんは映画を撮り続けてらっしゃいますよね。死んだと思いながらも撮り続ける理由は何ですか。

 

庵野  他にできることないですから。

 

人研  (笑)そんな理由でいいんですか。でもそんな中でも新しい可能性を見いだしたり・・・。

 

庵野  いや、ないです。映画はもうメディアのコアにはなり得ないですね。

 

人研  でも北野武さんの映画とか世界で評価されていますが。

 

庵野  たけしさんの映画は二億稼いだけどあれが限界なんですよ。世界のたけしと言われていてもこんなもんです。これはオフレコなんですけれども。世界のたけしと言いながらも「BROTHER」て映画は向こうで撮ってますよね、ハリウッドで。向こうの人から完璧にバカにされちゃうんですよ。なぜかというとアメリカで二億の映画と言うとD級映画なんですよ。B級でも2、30億は出てるんで。Aになると50から150とか。今制作費100億の映画とか普通に出てるし、制作費5億と言ったらハリウッドスターのギャラの10分の1とかそんなのですよ。それではハナから鼻で笑われてしまう。

 

人研  日本で30、40億とか投入したら、いい映画、という言い方は変ですけれど、資本主義の波に乗るような映画はできると思いますか?

 

庵野  いや無理。3、40億投入したら回収できる金額でちょうどゼロですよ。

 

人研  日本で興行上の収入がほとんど見込めないのはどういう理由なんですか?

 

庵野  日本人は映画を観に行かない。アメリカ人は映画は自分たちの基軸になっている。軍事産業とスペースシャトルと映画くらいしかアメリカが世界に誇れる物ってないですから。あとマクドナルドとコカコーラか。世界征服の一つの形ですよ。映画で世界征服を企むわけですよ。実際できてますけどね。日本はアジアに市場はないしアメリカに市場はないしヨーロッパに市場はないし日本の映画はほとんど日本国内で回収しないといけない。50年前にやった戦争で未だにアジアに嫌われてるんです。韓国でも日本の映画って60年近く経ってようやく「そろそろ許してやるか」って感じですね。日本語の歌と映画がぼちぼち公開できるようになったけどまだまだ世界市場には受けないですね。アメリカは世界中で公開してひと月あれば100億くらい余裕で回収するけど、日本は二億回収するのにどうしよう、といった感じ。

 

人研  庵野さんが映画を撮り始めるきっかけはどのようなものだったんですか?

 

庵野  制作は高校二年の時、面白そうだと思って8mmの機材を貯金はたいて買ってそれで自分でまわしてましたね。

 

人研  何か感銘を受けた映像は?

 

庵野  いや、自分で作ってみたかっただけ。

 

人研  自分の生まれ育った山口県が舞台で、ストーリーは映画監督が地元に帰ってある女性と会う、というのは庵野さん自身の原体験に基づいているような感じはありますね。

 

庵野  舞台が地元なのは、あの町が絵になるから。いくら地元でも絵にならなければ撮ってもしょうがないので。二年くらい前に絵になるってようやく気づいたんです。あと地元の方が映画を撮りやすいんです。ロケハンもいらない勝手知ったる土地なので。どこかの馬の骨が来るよりは、地元の人からも撮影の協力を受けやすいですし。

 

人研  じゃあこれからも地元の山口県で・・・。

 

庵野  いや、それはない。もう一回やっちゃったんで。

 

人研  尾道三部作についてなんですけれど、確かに尾道はきれいだと思うんですけれども、あれはどうとらえていらっしゃいますか、映画監督として。

 

庵野  自分の生まれ故郷に対するノスタルジーというのは、僕はあまりないんです。あんまり同じ物を作りたくないっていうか。

 

人研  これからは実写の方を進めていくんですか?

 

庵野  しばらくはね。

 

人研  エヴァンゲリオンで一世を風靡して、今はアニメの方が市場も盛んなのに。そっちに対する野望というのは?

 

庵野  ないです。

 

人研  GAINAXっていうとアニメのイメージがありますけど、なんでそこから実写をやろうという変化があったんですか?

 

庵野  一つはアニメで行き詰まっちゃったっていうこと。だいたいのことはやっちゃった気がするし。今もう一回やってもエヴァンゲリオンとそんなに変わらないと思うんですよ。だから作るよりそっちの再放送かビデオ観るかっていうね。

 

人研  (笑)

 

庵野  でも実写はシステムも全然違うんで。現場も全然違いますし、アニメだとだいたい先が見えちゃうんですけど、それが今面白くない。モノ作りとしては楽だと思うんですよ。自分がいなくても下の者に自分と近い物ができるっていう、それはそれでいいんですけど、それを今面白いと思わない。実写だと自分が思ってもみなかったものになることが多いんですよ。宮崎さんとか全部自分でコントロールしたい人はアニメやると思うんです。

 

人研  ラブ&ポップはとてもアニメ的なカメラワークが多いと思うんですけど、あれはアニメを意識してやっているんですか?特に電子レンジからカメラが出てくるシーンとか普通の実写ではあり得ないじゃないですか。あれは面白いなと思うんですけれど。

 

庵野  いや、あれは、アニメというよりビデオが小さい、機材が小さいんです。35mmのカメラってこんなにでっかいんですよ。電子レンジになんて入らない。今はもうこれですから。皿の上に乗るんです。三年前に機材の限界がきまして、あれはハンディカムて撮ることに向いてる企画だったんです。アニメでできないことを極力やったつもりなんですけれども。反抗ですね。アニメだとカメラ動かすのは手間ひまかかる割にあまり効果が上がらないんですよ。でも、実写だとこんなにカメラ動かしてるのに誰も文句いわない!って(笑)アニメでできないことを目指していて、実写っぽく見えないのは、それは逆にアニメらしいってことかもしれないですね。

 

人研  原作は村上龍さんですけれども、自分から映画化させてくれ、と頼んだんですか?

 

庵野  あれはこっちからです。

 

人研  時事ネタというか、援助交際という社会現象を選んだのは庵野さん自身に問題意識があったからなんですか?

 

庵野  ないです。これならできる、撮りやすい、と思ったので。

 

人研  村上龍さんの小説が好きだから引かれていった、という面は?

 

庵野  あまりないですね。

 

人研  じゃあ、今映像化してみたい小説がある、というわけでは・・・。

 

庵野  ないです。龍さんあんまり読んでないです。「イン ザ ミソスープ」が最後かな。

 

人研  基本的な質問なんですけど、今実写を撮っていて、アニメより予算は多いものなんですか?

 

庵野  アニメより安いです。比較対象が難しいですけどアニメは比較的コストがそんなに変わらないです。ジブリ作品以外は。テレビアニメなんかは枠が決まっちゃってるんでローリスクローリターンなんです。ローリスクをずっと続けてたまにハイリターンが来る、といった感じ。投網形式なんです。網を投げ続けていればいつか大物が来るだろう、といった。会社は投資してもそんなに損しないですね。

 

人研  Vシネマみたいなものなんですか。安い予算で回転率を上げて。

 

庵野  まあそんな感じですね。経済的には成り立つんです。必ず何本、っていう感じがあるしそれでも売れないようなものはあるんですけど大コケしてもそんなに損しない。安い予算だし。

 

人研  そういえばアニメの中に実写を入れたことがありますけれどあれはどういった意図でなされたんですか?

 

庵野  まあアニメじゃもうできなくなったんですね。そういうものを。

 

人研  技術的な問題でできなくなったのか、指向性の問題でできなくなったのか色々あると思うんですけれど。

 

庵野  指向性です。アニメはアニメですからね。

 

人研  じゃあその枠を打ち破りたくなったってことですか?

 

庵野  まあ、もうこれはアニメじゃ駄目かな、と。

 

人研  じゃあ自分が表現したいものに合わせてアニメにしたり実写にしたり、ということですか?

 

庵野  そうですね。あくまで方法論だと思うんですけど。アニメに向いてる企画とか、実写の中でも、これは機材はビデオの方がいいな、とか35mmフィルムがいいな、とか、あとメディアも、これはテレビがいいなとか、映画がいいとか、ビデオがいいとか、そういうことをやってます。最初にこれをやる、とかあまりない。

 

人研  エヴァンゲリオンのビデオって、最後の方でアニメの映画を観ていると思われる劇場のオタク少年たちを映しているシーンがありますよね。

 

庵野  あれは春の初日ですね。

 

人研  アニメではできなかった手法をアニメの中に、とおっしゃいましたが、コスプレしている人とか撮ったりっていうのはどういった意図なんですか?

 

庵野  観たとおりですね(笑)

 

人研  単純に、こいつらやばいだろ、と思ったわけですか?

 

庵野  やばい、というよりも、これは鏡みたいなもんかな、と。

 

人研  (爆笑)

 

庵野  真っ黒にしようか、ていうのもあったんですけど、テレビの場合画面が黒くなると自分の顔が写るじゃないですか。

 

人研  なるほど。

 

庵野  そういうことをやろうかと思ったんですね。

 

人研  すごい面白いですね。

 

庵野  いや、多分ね、わからないですよそれは。意図が伝わりづらいですけど。

 

人研  観てる人を冷やかしているのかと思ったら、そんな裏の意図があったんですね。あの当時エヴァに依存しちゃってる人が多かったじゃないですか。それを突き放す意図があるんだと思ってました。

 

庵野  そういうのもありますね。

 

人研  挑戦的なことですけど、どんな反応がありましたか?

 

庵野  反応は気にしなかったですね。

 

人研  実際観に行ったときは賛否両論あった気がしまして、はっきり言ってしまうと、こんなことされても困るな、と思ったりしたんですが。余計なお世話だ、と(笑) 鏡を見せられても、もう僕たちは観に行ってしまっているんだから、そんなことされても対処の仕様がない。

 

庵野  まあそれもまた、いいんじゃないんでしょうか。

 

人研  (笑) 庵野さんはオタクの少年は肯定的に見てらっしゃるんですか?

 

庵野  そこまで否定することはないですけれど。

 

人研  庵野さんに対するファンの批評を庵野さんを快く思っていない、と前に雑誌で読みました。表象的なところしか見ていない、と。それに対しては。

 

庵野  あまりにも薄くて、もう少し考えなさいよ、という気持ちはあります。

 

人研  例えば社会学者の宮台さんとかが庵野さんのアニメを使って批評をしていたりとか、学者が批評していることについてはどう思われますか?

 

庵野  実際のところ、こういう映像っていうのは発表した時点で自分の手から離れてしまうんです。料理が一番近いものだと思うんですけれども、料理が出たときに、それを食うも食わないもお客さんの自由なわけですよ。うまいまずいを語るのもお客さんの自由だし、感覚的、感情的なものはそのときの体調で変わってしまうものなんですよ。甘く感じる、とか辛く感じる、とか。同じ味付けなんですけどね。それにいちいち対処してもしょうがないし、それはお客さん個人のものなんでプロパガンダとかですね、これはひとつのこういう考え方なんだ、って出すものではない限り、お客さんにどう取られても仕方ないですね。そこで自分の念のようなものが伝わるとは思えないですよね。それはもう無理というところからスタートしているので。

 

人研  テレビとかでよくエヴァンゲリオンの解説の本とか取り上げられてましたよね。庵野監督自身は、何なんだそれ、みたいな気持ちで見ているわけですか。

 

庵野  うーん、まあ・・・、暇なんだな、と。

 

人研  (爆笑)

 

庵野  ただみんなこんなに答え探しをするんだな、答えがないとそんなに不安なのかな、というのは意外に思いましたね。結構どうでもいいことなんですけどね(笑) 整合性持てないですからね。持たないで作ってるから。謎に関しては整合性はありえないですよ。一部はわざと、一部はしまった、って感じですね。こうやってこうやってたら、「あれ?しまった、・・・、まあいいや」って。観ている人が楽しんでいればいいか、と。合わないものを無理矢理合わせようとする行為も、その人が楽しければいいか、と。それで商売するのはどうか、と思いますけどね。他に商売しようがあるだろう、と(笑)

 

人研  あまりにも表面的なところしか見ない、というところで、終盤になって渚カヲルってキャラが出てくるじゃないですか。あれは女のオタク的にはすごい飛びつきそうなので私は一般人として観ていて、なんで最後の最後にこんなキャラが出てきたのかな、って不思議に思ったんですけれど、いわゆるやおい目当てで入ってくるファンのこととか考えなかったんですか?

 

庵野  ゼロではないですけど、そこまで・・・。

 

人研  渚カヲルは聖闘士聖矢みたいに商品化するためのキャラかなと思ったんですよ。そうではないんですか?

 

庵野  ほんとはもうちょっと早めに出る予定だったんですけどね。そこまでの意図はないですけれども、やっぱ美少年出さないとねえ。

 

人研  (爆笑)

 

庵野  まあお洒落とかないと。あそこで変なキャラになったのはやっぱり当時気が狂ってたんですね(笑) 改めてみると確かにおかしなやつだと思いますね。

 

人研  逆にそれでものすごく印象に残るキャラになりましたけどね。

 

庵野  シンジ君の理想の男の子の、ネガティブなところとはまったく逆の逆シンジ君として出なくてはいけなかったはずなんですよ。理想のシンジ君。相関図でいけばですね、無意識のシンジ君ってのは綾波レイで、表に出てるシンジ君が碇シンジで、理想のシンジ君っていうのが渚カヲル君になる予定だったんですけれどもね。理想の男にするはずだったのに出来上がってみたらただのおかしな奴だった、というね(笑)あれはちょっと自分の力不足です。

 

(しばらくの間、聞き取り不能)

 

庵野  精神的にも物理的にも追い詰められていて、普通の状態じゃなかったんでしょうね。

 

人研  時間なり何なりが追い詰めてきたり。

 

庵野  それはもともとないんですよ。スタッフ全員がテンションがガーッと上がっちゃってたんでしょうね。監督だけ上がってるとかじゃなかったですね。みんな上がりきってました。あれは言葉で説明できないですね。そういうのがあるから面白いんですよね。

 

人研  25回と26回、あまりにも時間がなかったと書いていましたが、テンションが上がったために、言い訳ではないですけど、そういうのは関係なかったですか?

 

庵野  関係なかったです。放送されなきゃ放送されないでいいと思ってましたね。

 

人研  (爆笑)

 

庵野  僕だけじゃないですから。スタッフ全員ではないですけど、メインの人とかが。あそこまではなかなか行かないですね。

 

人研  口では言えないことってどんなことなんですかね。

 

庵野  まあ、脳内麻薬が全部出てる感じですかね。

 

人研  (爆笑) じゃあそれが終わったあとにはもう・・・。

 

庵野  ガクッと来ちゃって。

 

人研  そのときは映画とかも作ろうとは思わなかったですか?

 

庵野  とにかく生きてようと思ってました。

 

人研  そんなにですか?

 

庵野  終わって四月は北のほうウロウロしてて。

 

人研  終わった後は充実感とか無く?

 

庵野  全然無いですね。

 

人研  虚無感だけですか。

 

庵野  虚しい感じ。

 

人研  じゃあエヴァンゲリオンの中で、自分が表現したいと思ってたことが必ずしも成功したわけではなかった?

 

庵野  そういうんじゃなくて、精神的なリバウンドがね、こう・・・。でもどっかでそれを楽しんでる自分がいたのよ。精神科にもとりあえず行ってみたんです。当時カウンセリングっていうのに興味があって。ワクワクするじゃないですか(笑)あのころはそういう本をずーっと斜め読みしてて、知識だけはあって、それを実践で活かしたいと思ったんですよ。日本の主流は抗精神薬、要するに科学療法なんですね。カウンセリングは日本じゃないらしいです。

 

人研  科学療法って具体的に電気ショックとかですか?

 

庵野  具体的には薬です。症状を説明したら「じゃあこの薬をあげます」って。でカルテに書いて、「薬剤師のところに行ってください」と。

 

人研  えーっ!

 

庵野  その薬ってのがどんなものだかもわからない、もしかしたら合法ドラッグみたいなのかもしれない。それはまた楽しみだなあ、と(笑)本来なら波が来るところをステビライザーみたいに安定させるだけなんですよ。薬っていうのは。なんかこの辺で押さえられてる感じがしてすごい不愉快だったんですよ。もっとナチュラルに自分の精神を何とかしようと思って、最初の2,3日以降は薬を飲まずにやめちゃいました。

 

人研  エヴァの映画作りに舞い戻ったきっかけは何だったんでしょう。お金のためとか・・・。

 

庵野  あ、いえそんなんじゃないです。お金というよりはスタッフ置いてけぼりですよ、と。もう一回やる、と言ってしまった手前ね。

 

人研  映画版が終わったときの感想は?

 

庵野  映画が終わったときはラブ&ポップ作ってた。同時進行で。映画はすっごい冷静にやってたね。

 

人研  劇場版で25話と26話って同じような話っていう感じでできてるんですけどあれはなぜ重複させて作ったんですか?

 

庵野  本来、こういう風になるはずだったんだろうねえ、ということです。あれはリメイクになっちゃってますから。実際にやりたかったのは25話。もともとテレビの26っていうのはああなる予定だったんです。25までちゃんとできてて26でひっくり返すっていうのは美しいんです。25が落ちちゃって、結局このまま製作するしかない、と。映画は25のほうをメインでやりたかったです。26がなあ、綺麗に作り直してると思うんですよ。綾波レイが巨大化するっていうのは当初の予定に無いですけど、まあどうせやるなら地球規模にしようと。40mとか50mとかでかけりゃ文句無いだろ、と。

 

人研  今庵野さんが25話、テレビ版のほうなんですけど、僕は面白いと思いましたけれど、今の庵野さんが観たらどう思われますか?

 

庵野  25話っていうのは、フィルムにしたときにあれだけ観てないですね。25話が本来の最終回なんですよ。

 

人研  こうやってエヴァンゲリオンについて聞かれるっていうのは、やっぱあまり気分のいいものではないですか?

 

庵野  うーん、不愉快ではないですね、やっぱり。聞かれたから答える、という感じ(笑)自分から言うことはないですよ。あとこのレベルだったら言えるっていう、これが雑誌とかの取材だったら喋らないですよ。答え合わせするんじゃなくて、個々で別の印象を持っていればいいかな、と思いますね。テレビが終わったあたりが、正直に言うと「世の中にバカってこんなにいるんだ!!」って。

 

人研  (爆笑)

 

庵野  自分はバカだバカだと思っていたけど、俺よりバカがこんなにいるとはね。あれはショックでした(笑)バカっていうのは偏差値とか勉強ができるとかじゃなくて、ものを理解する力とかなんですけれども、あとアニメファンの世界の狭さ、自分も含めてね、こんなに狭いとは、と。一時期言わなきゃ気がすまないっていうのがあったんですよ。特に当時はパソコン通信、今のBBSなんですけれど、あれの質の低さに、ちょっとね・・・。言っても仕方ないなと思いつつも、言わずにいられない、と感情が先立ってしまうという、まあ大人気ないな、と。誰も言わないならとりあえず俺がやっておくよ、っていう。君たちはバカだ、って誰かが言っておかないと。一定のレベルに達している人はそれには反応しないはずなんですよ。「俺はバカじゃないな」と思うだけなんです。躍起になってひっかかってくるのがほんとに多くてね(笑)「さらにバカがいるな!!」って思ったりして。発言の権利をパソコン通信とかBBSが持っているっていうのは、そのときはちょっと末恐ろしいところがありますね。

 

人研  2ちゃんねるとかすごいやばい、って感じてるんですか?

 

庵野  いや別に。一定のレベルに達している人は、2ちゃんねるを気にしないですから。エヴァが終わって、人間を区別するようになってしまったんです。レベル低い人は、わからなくていいけど俺のそばに来ないでくれ、というね。2種類いる、というのはエヴァ以降はっきりわかってきましたね。

 

人研  エヴァンゲリオン以降同類のアニメとかありますよね、そういうのにことごとくはまっていく人っていますよね。

 

庵野  そこまでいくともう気にしなくなりますね。最初の数ヶ月ぐらい「まあそういうもんだろ」と思えば気にならなくなる。今もう人の評価とか気にならなくなりましたね。慣れなのか閉ざしてるのか自分ではちょっとわからないですけど、細かいことでは心が動かない。悪口言われても心が動かないし、ほめられてもそんなに動かない。鈍感になってるだけかもしれないですけど。自分がやりたい事やってるからいいや、っていう感じですね。

 

人研  エヴァの最盛期のとき、評論家とか学者とかが話をしてましたよね。こいつはバカだな、って思った人はいますか?

 

庵野  いや、読んでないんです。なんか読む気がしなかったですね。送られてはきたけれども。

 

人研  それは「俺に解説されてもな」といったところも・・・。

 

庵野  興味がまったくなかったです。世界で一番最初にエヴァの熱が下がった人間ですね(笑)他の人は終わってから入ってくる人もいるのに、タイムラグを感じました。その辺はしょうがないですね。

 

人研  庵野監督自身が他の同世代の監督、例えば岩井俊二さんだとか石井聰亙さんだとかで、影響を受けている方はいますか?

 

庵野  日本映画観ないですね。観るのは報道番組とニュース、ワイドショーぐらい。ドラマも観ない。外国の映画もあんまり観ない。映画観る癖がついてないですね。いくつも観ないですね。好きで観てるんじゃなくて参考にしてる感じですね。参考になる、って薦められたものを観ている感じ。

 

人研  報道番組で最近印象に残っている事件とかありますか?

 

庵野  最近面白かったのは、加藤さん。

 

人研  政治的な思想の関係ですか?

 

庵野  興味の問題。なんか面白そうだな、と。それまで政治にはまったく興味がなかったんですけれども。それは政治家が面白いと思っているのであって政治が面白いと思っているわけではないですね。55年体制から中曽根さんのころまでほんとに政治って面白かったんだなあ、って。どこまで本当かわからないですけれどね。フィクションとして面白おかしく書かれているだけかもしれないですけど、少なくともそれは面白かったですね。政治の椅子取り合戦、権力争い、誰と誰がケンカしてる、とか。永田町って面白いですよね(笑)

 

人研  アニメに興味ないおじさんおばちゃんがオタクを見て思う気持ちと同じものを監督も持っているんですか?

 

庵野  引いた感覚は持っていますけどね、実際にはそっちのほうにいる人間なんで。カテゴリー的にはオタクだと思ってますけれども。オタクは今どうなのか、というのがちょっと見えてるだけだと思う。人間はそうそう変わらないですよ。オタクはオタクなんじゃないですか。「おまえもそうだろ」と言われたら「はい、そうです」と(笑)

 

人研  引いた視点で見れるようになったのは、自分が作る側にまわるようになったからですか?

 

庵野  そんなことないですよ。エヴァンゲリオン以降。エヴァのときまでオタクの場所で外に出ず、外に出たらオタクじゃなくなるとわかりました。

 

人研  今昔の自分を振り返って思うところはありますか?

 

庵野  エヴァ以前はアニメとその周辺のことしか知らなかった。終わったら実際の世界のこととか、多少は。

 

人研  それはエヴァをやっている最中に思ったことなんですか?

 

庵野  終わってからですね。やってる最中はそんな余裕ないです。自分の視野とか考えずやってることだけで精一杯。

 

人研  映画以外に好きな趣味とかありますか?スポーツ観戦とか。

 

庵野  スポーツは観ないです。気になるのはケンカぐらい。

 

人研  好きなチームがあるとか。

 

庵野  そういうわけじゃないです。ダイビングとかやってたんですけど最近三年くらい行ってないですね。スキーも30過ぎてから始めたんですけれどやってないです。趣味を持とうとしても持てないですね。

 

人研  日常生活はどう過ごしてます?

 

庵野  寝てるんじゃないですか(笑)寝てるか仕事してるかですね。

 

人研  集めているものとかは?

 

庵野  こだわって集めているのはおもちゃくらいですね。超合金のやつとか。躍起になって集めるということはないですね。出てたら買う。

 

人研  なんでもオールマイティーに集めるんですか?

 

庵野  高校のときくらいにタミヤのスケールの戦車とか本格的なやつを。あとバンダイのプラモとか。ガンプラは自分で作らずに友達のを見て納得してましたね。作る過程を楽しむ、という考え方はなくなっちゃいましたね。完成品があるなら買ってしまう。

 

人研  話は変わりますけど、大阪芸術大学映像科ですよね。あそこは突拍子もないイメージが僕にはあって、面白いな、と思った人が大阪芸大出だった、ということがよくあるんですけれども。中島らもさんとか。「AV女優」って小説を書いた永沢光雄さんとか。出身校の校風みたいなものが影響しているのかな、と思うんですが。

 

庵野  それはない。西のほうでそれっぽい大学ってあそこしかない。だからみんなしょうがなく行ってたんです。大阪芸大出身の人はあそこの出身であることを隠したがるんですよ(笑)出身を明かすのはお互い大阪芸大出身だと確信を得たときだけ(笑)誇れることではないですよ。愛校心もないですし。

 

人研  在学中は映画サークルとか入ってました?

 

庵野  いえ、高校のときの友達に誘われまして。

 

A面終了

 

人研  そのときは映画とか映像で食っていこうっていう気は・・・。

 

庵野  全然なかったですね。芸大に入った最大の理由は学科試験がなかったことですから(笑)

 

人研  先ほど政治に興味があるっておっしゃいましたけど、学生のころはそういう活動とか・・・。

 

庵野  全然ないです。

 

人研  でも映像とか演劇に関しては当時政治的なイデオロギーが醸しだされていたような風潮があったと思うんですけれども、そのときになぜその方向へ行かなかったんですか?

 

庵野  そのときにはまるで興味がなかったですね。興味の範疇から外れていたんで。オタクの特徴は、自分の興味あること以外はとにかく無関心、ということですから(笑)そういう人たちがいる、という程度の認識しかなかったですね。政治のイデオロギーじゃなくて政治家の椅子取り合戦とか人間的な面白さが好きなんです。最近面白い政治家いなくてつまんないですよね。

 

人研  森喜朗とかどう思います?

 

庵野  森さんは世間の風評のままですよね。辞めたらいいのに、と思いますけど。ああいう人でも日本の総理になれるんだな、という点では面白かったですけれども。もっと優秀な人がトップじゃないと。森さんでいけるなら日本はまだまだ大丈夫ですよね(笑)

 

人研  先ほど心理学に興味があるとおっしゃってましたが、エヴァでもキェルケゴールの「死に至る病」とか引用されてたりして・・・、

 

庵野  あれ読んでないですよ。

 

人研  ええーっ!?

 

庵野  引用してみただけで。

 

人研  好きだったのかな、と思っていたのですが。

 

庵野  あっという間に興味を失いましたね。わかんなくて。斜め読みでの憶測とかはしましたけど。あと言葉を覚えると賢そうに見えますよね(笑)

 

人研  キリスト教をベースにしたりしたのは好きだからではなく・・・。

 

庵野  そういうのでは全然ないですね。キリスト教はさっぱりわからないです。雰囲気で(笑)

 

人研  エヴァブームの際に「死海文書読解」とかの本が出てましたけど、それは自分では予想できなかったことですか?

 

庵野  それはなんとなくわかりましたね。僕は中学のとき「宇宙船間ヤマト」というアニメが好きで、波動砲とかワープ航法とか、そういうのに興味があってブルーバックス買ったりしてましたから(笑)相対性理論の知識とかはヤマトの影響ですね。あれで死海文書とかに興味ある人が出てくればそれはそれでいいや、という感じですね。あれで心理学に興味が出てそういう方向に行くのも面白いですよね。キリスト教に関することは、辞書みたいなのを引いてバーッと調べてるだけなんですよね。そういう便利なものが世の中にはあるので(笑)僕らが学生のころテレビでマクロスというアニメがやっていまして、カタログ世代、というのがありまして、スペックとカタログにしか興味がいかない世代というのがあったんですよ。カタログ的な要素だけで判断するという。その奥にあるものとかはどうでもよくて、表層のものにだけとらわれる、というね。それの延長でいいや、ということですね。いろんなキーワードっぽい言葉があるけれど実はただの記号でしかなくて、一つ一つに意味というのはそんなになくて、ごちゃっとしているところで初めて相互関係というか意味のようなものが出てくるんです。一つ一つを掘り下げてもあっという間に底にぶつかるんです。

 

人研  他の天使を扱ったやつとかだと「うわ、だせえ」とか思ってしまうんですけれども、エヴァはすごいスタイリッシュだなという印象を受けます。

 

庵野  そういうとこに特にこだわったからじゃないですか。かっこよさは追求しましたから。

 

人研  人類補完計画というのがありましたが、あれがよくわからなかったんですけど、何だったんですかね?

 

庵野  わかる人はわかると思うんです・・・。

 

人研  (笑) いろんな記号がエヴァには散りばめられてますよね。庵野さん自身で答えを見出している部分ってありますか?

 

庵野  僕なりの答えはありますけれど、みんなで自由に解釈してもらえればそれでいいですよね。自分で全部言ってしまうとそれはただの答え合わせにしかならないですからね。100人いたら100通りの解釈ができるっていうのが、言ってしまえばエヴァの新しいところだと思うんですけれども。それまでは100人中50人くらいは同じ答えになってたんですけど、そうならないところが面白いっていうか。そういう仕組みにはしておきましたけれど、あそこまで熱狂する人が多いとは思わなかったですね。 物理的な間違いとかしか指摘しないですね。

 

人研  話が戻ってしまうんですけれど、先ほどBBSなんかでエヴァに関する頭の悪い発言が多くて「うわっ」と思ったとおっしゃってましたけれど、当時に比べてインターネットは普及しているじゃないですか。ネットって今まで発言力のなかった頭の悪い人でも発言できるぬるい空間っていうことですよね。

 

庵野  淘汰されないってことですよね。それが問題なんです。雑誌などに載せられる発言は選抜がされているんですけれども、頭のいい発言ばっかりだと他の人が書いてくれなくなるんで、頭のいい記事とそうでない記事をバランスよく織り交ぜてやるんですね。

 

人研  匿名だと言いたいこと好き放題言って終わりっていうふうになりますよね。

 

庵野  そうですね。責任取らないですよね。ネットに関しては情報の真偽というのがわからないですよね。ハンドルネームで書いている人とか見ると、ほんとかよ、と。情報をただの情報としてだけで受け取る人ばかりならそれでもいいんですけれども、産経新聞と東スポに書いてあることを同じように受け止めてしまう人にはつらいかな、と思いますね。情報の選別ができないと。人が多々いる中、選別されない情報が垂れ流されているというのはきついな、とは思いますね。よく考えるとそういうサイトに群がる人はやっぱ同レベルの人だからね、頭のいい人はそういうところ読まないよ(笑)サイトにはサイトのカラーがあって、全世界に発信していてもそれを読む人は限られていて、閉じてるっていうのが実感としてわかったんで、そのへんはもう言わないです。言っても仕方ないというか、言う必要がもうないかな。サイトが出てきてはそれを荒らすやつが出てきて、みんなで攻撃して、「みんな仲良くしようよー」とか言って、便所の落書きですよね。こんなことNEW TYPEで言ったら怒られますけどね(笑)便所の落書きってそんな感じじゃないですか。「こいつはホモだ」って書いてあって、それに「お前がホモだ」って矢印つきで書いてあったり(笑)

 

人研  じゃあ一時はそういった掲示板を見たりしたんですか?

 

庵野  ほとんど見てないですね。自分で読むよりは読んだ人の感想を聞いたほうが感じをつかみやすいですね。自分の信用できる人から聞いて。一人一人の意見より全体がどうなってるかの方が重要なので。トータルで見ないとダメなんですよ。アンケート至上主義じゃやっていけんと。雑誌のアンケート至上主義が崩れてきてるのは、アンケートに頼りすぎてきたからなんですよ。アンケートを書くような人種が限られていることになかなか目がいかなかったんですね。アンケート回収率が全体の10%だったとして、その10%だけで物事の全体を測るのはどうかなあ、と。

 

人研  GAINAXでいうと、積極的にアンケートに答えるのは庵野さんの元で働きたいような人たちばかりだと思うんですけれども、そういう人は多いですか?

 

庵野  あまり聞かないですね。BBSで書き込んでる人が全員頭悪いとも思わないですよ。ただそういうのを放置する環境があるっていうだけですよ。もっと淘汰されればいいのにね。淘汰されないのがいいところなんですかね。そのうちインターネットは国が淘汰しますよ。今は波及させることが先ですけど。ある程度普及したら必ず制限がかかるでしょうね。プロバイダが免許制になると思うんですよ。で、裏のプロバイダが出てきたりとかね。免許とまではいかなくても郵政省だか通産省だかがプロバイダを国の指揮下におけるような法律に変えるんだと思うよ。先に国民の半分くらいはインターネットができる環境にしておかないと。5000万人くらいいけば法の制限は出てくると思いますね。年齢じゃなくて思想的な部分とかで。子供専用の端末ができたりとか。エッチサイトにつながらないようにしたりとか、そのうち出るんじゃないでしょうか。力をつけたものには国は必ず手を出すので。

 

人研  表現の自由の制限に関して、R15指定とか、18禁とか、エロビデオなんかにありますよね。最近だとバトルロワイアル、あれがR15指定を受けたみたいなんですけど、作る側から見て、制限されるっていうのはどうお考えですか?

 

庵野  あの、ラブ&ポップはR15指定なんですよ。映倫の規定文書を読むと、あれはほとんどR15かR18になるんですよ。その中でも一番ダメなのは、精液を出しちゃダメ、っていうのがありますね。本当は映しちゃいけないんですよ。体外排出物だから、大便とか小便とか、映してはいけないものだと書いてありますから、R15にしましょうと。今の中学生くらいだったら、夢精やオナニーとかで精液がどのようなものかはわかっているはずなんですよ。小学生はわからないんで観なくていいと思います。中学生ぐらいで理解できるものなんでしょうね。

 

人研  じゃあ庵野さんにお子さんができたなら自分の作品は見せないでおこうかなと思っていますか?

 

庵野  理解できるようになったら見せればいいと思いますね。4つ5つにエヴァンゲリオン見せてもしょうがないじゃないですか。「これお父さんが作ったんだよ」「よくわかんない」で終わりでしょう。それが理解できるころには親の仕事として見せてやりたいですけれどね。それを観てどう思うかは子供の自由ですね。

 

人研  自分の作品に愛着を持ってらっしゃいますか?

 

庵野  自分から観れば終わってしまってるものですからね。この間エヴァの原画集作って、五年ぶりくらいに見てみたらけっこう面白かったですね。よくできてるじゃん、と思って。

 

人研  売れるものを作るって難しいと思うんですけれど、エヴァの場合は初めから狙って作ったわけではなかったんですか?

 

庵野  いや、ある程度のラインはね。自分がやらなきゃいけないのは元が取れるところまでで、元が取れる確率だけは考えましたよ。あとエヴァはもうちょっと外に向けたいな、なんて考えたりしてましたよ。

 

人研  外に向けるってどういうことですか?

 

庵野  アニメ雑誌を買ってる人以外ですね。

 

人研  それは成功しているんですよね。

 

庵野  まあ半分ですね。

 

人研  僕の印象だと、監督はアニメ雑誌を読んでない人もはまらせることができたわけじゃないですか。・・・(聞き取り不能)

 

庵野  それはエヴァファンですね。アニメファンとエヴァファンは違いますよ。サザエさん好き、っていう人はアニメファンとは呼ばないですよ。でも、「セーラームーン好き」って言ったら「何お前、アニメファン?」て(笑)まあなんとかエヴァはアニメファンとは呼ばれないボーダーの位置にいるみたいですけれど。宮崎アニメ好きでもそうは見なされないですよね。ディズニー好きもそう。押井さんはどうだろうなー・・・(笑)押井さんはアニメ好きの中でもインテリのアニメファンに好かれますね、インテリって言ってもいい意味じゃないですよ(笑)理屈好きというか。大友さんはファッションとして受け入れられてますよね。AKIRAとか。メビウスっていうフランスの漫画家がいるんですけれども、日本で一番最初に彼の画風を取り入れたのは大友さんですね。

 

人研  具体的にどういう画風で?

 

庵野  多分古本屋にありますから見れば「なんだぁ!?」ってなると思いますよ。

 

人研  そんなにうまいんですか?

 

庵野  厚ぼったいというか、アメコミでもなく、一番最初の大友さんの絵柄はこれから来ていますね。ゼロからの発想はまず人間にはできないですよ。誰かの作ったものを発展させて成長するんであって、大友さんを「メビウスのパクリじゃん」で片付けることはできないと思いますよ。メビウスの絵柄があったから大友さんの絵柄があったわけですけれども、あれはもう大友さんの絵になってますよ。手塚作品もディズニーがなければなかったでしょうし。

 

人研  ジャパニメーションと言われる日本のアニメを観て「日本が生み出したものなんだ」と誤解していたんですが実際は外から影響を受けているわけなんですね。

 

庵野  でも日本のアニメには日本の特徴があるわけですよ。マンガに対する抵抗がないのが日本の強みですよね。

 

人研  抵抗っていうのは見る側の?

 

庵野  絵柄が文化として浸透してますからね。西洋からすると珍しかったみたいです。

 

人研  庵野さんはどのような人から影響を受けていますか?

 

庵野  いやもうありとあらゆる方ですよ。目に入ったものの影響は受けてしまいますからね。まったく影響を受けない人もいるみたいですけれども。どんなつまらないものを見ても「これだけはすまい」という影響になるわけですよ。反面教師ですよね。「こんなすごい作品を俺も作りたい」というのも影響ですし。人間は一人では生きていけないし必ず影響を受けますからね、生みの親からとかも。人間はさっきも言いましたけどモデリングでしか先に進まないのでそういうものだと思うんですよ。親が尊敬できる人ならああなりたいと思うだろうし、尊敬できない親ならこうはなりたくないと思うだろうし。自分が日本語を喋っているのは自分の周りの人間が日本語を喋っているからそこから学んだわけで、アメリカで生まれれば英語を話すわけですよ。今の日本の時代と文化にどっぷり浸かって生きているわけで。影響というならすべてがそうですよね。

 

人研  その中から特筆すべきものはなかったですか?

 

庵野  それはその時期その時期にありますね。

 

人研  吸収したら忘れちゃうんですか?

 

庵野  好きなものは好きですよね。でもそれはその時代だけです。子供のころウルトラマン観てて、DVD買ったりするんだけれども好きじゃないんだ、っていうね(笑)観てるときは幼稚園の時代に戻っているわけなんですよ。精神的にある程度さかのぼらないと40過ぎた大人にウルトラマンは観れないですよ。40過ぎていきなりあれ観ても「なんじゃこりゃ」ってなりますよ。

 

人研  じゃあ今は特撮ものとか観ようとか思わないですか。

 

庵野  観ないですね。

 

人研  何か取り入れようとかそういう意味では観ない?

 

庵野  技術的に観るべき要素があるなら自分で観なくても誰かが教えてくれますしね。

 

(しばらく聞き取り不能)

 

庵野  あれは結局モデリングしかできてない、そこから先に行かなければダメだ、と。

 

人研  ウルトラマンの先に行く必要が・・・。

 

庵野  いや、昔のウルトラマンって作っている人にはウルトラマンじゃないんですよ。何かのメタファーであって、ウルトラマンであることで周りの何かをごまかしているんですよ。自分の持っている思いをウルトラマンという形に変えていて、要するにイデオロギー的なものがちゃんとあったわけですよ。何かの社会的メタファーなんです。平成のウルトラマンと呼ばれているティガ、あれはウルトラマン自身のメタファーなんです。裏にウルトラマンしかない、その先がない。ウルトラマンを応援している人たちがウルトラマンを作っているに過ぎないというね。それは自分たちの世代の宿命みたいなものなのでしょうがないと思いますけどね。

 

人研  ということは出尽くしちゃってるんですかね。

 

庵野  割と出尽くしていると思いますよ。ゲームはもはや頭打ち。どんどん短命になっていくと思います。ゲームの進化の速さはすごいと思ったけどあっという間に終点ですね。

 

人研  どの辺が終点だったんですかね。

 

庵野  一個前のファイナルファンタジーくらいからかな。

 

人研  もうゲームじゃなくなってる、とか、ソフトがハードに追いつけない、とか。

 

庵野  いや、そうじゃなくて、倍々ゲームを引き継いでいって、どんどんゲームが巨大になっていって、かかる費用は増えていくのにそれに反して売れる本数は限界が見えてきている。一番最初にある程度安く売っちゃったんで。FFとか一万円前後でも大丈夫だったはずなんですよ。でもあれだけのものを5800円で売らなければならない。で300万本で止まってしまった。FFは製作に70億とかかかるわけですよ。日本のゲームは日本映画と違ってハリウッド映画並みに金をかけるんですよ。回収が見込めるから。これからは開発費をつぎ込んでも売れる本数っていうのは変わらないでしょうね。

 

人研  じゃあこれからはいかに開発費をかけずに売るか、ということですか。

 

庵野  ハードがどんどん進んでいってるでしょ。PS2のスペックについていってるゲームってないじゃないですか。そんなにスペックのいいものにする必要はない。

 

人研  RPGはドラクエⅠ・Ⅱが僕は一番好きですけどね。

 

庵野  そうなんですよ。Ⅱが一番ゲームバランスがいいんじゃないですか。Ⅴくらいまでしかやってないですね。スーファミくらいでちょうどいいんじゃないですか?

 

人研  すいません、宴もたけなわなんですけれど、お時間になってしまいました。僕たちの話が庵野さんの刺激になったかどうかはわかりませんが、僕らは楽しませていただきました。今回はどうもありがとうございました。